偽りの恋人たちに祝福を

第60話

「こここ告白? さめささあの鮫島に?」

「……うん。あぁでも、告白って言っても、はっきり好きって言われたわけじゃなくて……なんて言ったらいいのかな?」

「はっきりしなさいよ!」

 胸の前で、両手をもじもじされる胡桃に、言いたい事があるならはっきりしろと大きな声で告げる。

「だからもう! 堂城副編集長と二人で打ち合わせをしている所に、飛び込んできたの? それも、黒木の事を襲うつもりですかって? 大きな声で叫びながら!」

「はぁ?」

 璃菜は、開いた口が塞がらない。

 むしろ、鮫島に対する怒りが……。

「……璃菜?」

「……鮫島! あいつ何様のつもり? 堂城副編集長が、胡桃のこと襲う訳ないじゃん! それに……いやぁ? そんなことより! あいつ、堂城副編集長のこと、なんだと思ってるの? 胡桃! そんなクソ男の告白なんて無視していいよ!」

 堂城に、8年もの間、想いを告げずずっと片想いしていた璃菜は、同僚の鮫島の言葉がどうしても許せなかった。

 それ以上に、自分の大切な親友(胡桃)を傷つける言葉を発した鮫島宏太のことをどうしても許すことができない。

「……うん」 

「もしかして、付き合うつもり? 鮫島宏太と? 堂城副編集長の代わりに?」

「……それは」

 遅すぎたあの人への恋心。

 気づいた時は、もう想い人は他人の者

 それでも、どうしても抑える事ができないあの人への想い

 バカだよねよ? 

 なんでこんなにも好きになってしまったんだろう?

 叶わないって解ってるんのに

 それに……

 私……

「胡桃?」

 胡桃の目から涙が零れる。

 その姿に、璃菜は胡桃の名前を呼ぶ。

 そして、胡桃自身も零れてくる涙に気がつき、慌てて涙を拭う。

 しかし、拭っても、拭っても、涙は止まらない。

 それどころか、涙の量がさっきより多くなる。

「なんで、止まってくれないの? なんで……」

 璃菜が胡桃を正面から抱きしめる。

「璃菜! 離して!」

「離さない!」

 離れようとする胡桃を璃菜が更に強く抱きしめる。

「大丈夫! 胡桃は、独りじゃあない! だから……」

 その言葉でリミットが完全に外れたのか、胡桃は、璃菜の胸元で涙が枯れるまで泣き続けた。

 そんな胡桃の姿を、いつの間にか公園にやってきていた鮫島宏太が見つめていた。

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