第56話

「ただいま」

 渋谷咲が、ルームメイトで、恋人でもある秋葉陽太あきばようた(25)と暮らしているマンションに疲れ顔で帰ってくる。

 キッチンで、二人分の夕飯を作っていた陽太が、咲の声に気づきキッチンから顔を出す。

「咲ちゃん! おかえり! 遅かったね?」

「急に会議が入って? ごめん陽太さん。いつも家のこと任せきりで」

「そんなの気にしなくていいの? 俺が、好きでやってるんだから」

「……うん」

 陽太は、建築会社の事務員として働いている。

 余程の事がない限り、定時に仕事が終わるので基本に陽太が家の家事をやってる。

 渋谷も、仕事が休みの時や早く帰れた時などは、陽太と一緒に料理を作ったりしている。

 それでも、恋人である陽太に頼りぱなしになってしまうことが多い。

「咲ちゃんはさぁ? 俺のこと嫌い?」

 いつの間にか、自分のすぐ目の前に来ていた陽太。

「嫌いな訳ないじゃあん! でも……」

 次の言葉が出てこない。

 いやぁ? 言えない。

 だって……

『……貴女のお父さん。不倫されたんですよね? それも、貴方の小学生の頃? 貴女の担任の先生と?』

「咲ちゃん!」

 深緑のエプロン姿の陽太が、咲の事を真っ正面から突然抱きしめる。

「よよよ陽太さん!」

「咲ちゃん! 俺と結婚してください!」

「……はい」

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