第47話

「なんでこんなに胸が苦しいの? なんで……」

 百花は、堂城副編集長が黒蝶にいた頃(23~29歳)からの直属後輩で、そして、29歳の時、現雫丘出版長で、同期でもある犬塚梨々花さんに、晴海編集部の副編集長に任命され、黒蝶を離れた後も、二人の先輩後輩の関係は続いている。

 その証拠に、殆んどの社員が、「堂城副編集長」もしくは「堂城晴海副編集長」と役職で堂城の事を呼ぶ中、百花は、今でも「堂城先輩」と呼んでいる。

 それに、堂城の方は、いつの間にか、百花の事を「市宮」ではなく、「百花」と下の名前でそれも呼び捨て。

 堂城が、唯一下の名前で、それも親しみを込めてちゃん付けで呼んでいたのは、3年前、奇しくも堂城の元後輩に当たる男性(音無悠)と結婚し、寿退社した元晴海編集部所属の滝川春ただ一人。 

 そして、この滝川春と黒木は、本当の姉妹のように仲が良かった。

 だから、彼女が堂城から「春ちゃん」と呼ばれることに、黒木は何の感情すら持たなかった。

 それなのに……

 「なんで、百花のだけ名前で呼ぶの? なんで……」

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