第33話

「若瀬先生! 結婚なさせてるんですか? それって本当ですか!」

 驚きの新事実に、今の質問を最後の質問と決めていた小泉と渋谷は、さらに話しを訊こうと質問を投げかける。

「えぇ。3年前に、同じフラワーショップで働いていた2歳の年上の女性」

 本当は、もう、離婚してるけど。

 それどころか、昴はいま、フラワーショップ:ホワイトで働いていない。

 樋宮灯との結婚したあと、フラワーショップを辞め、今は、特殊能力と渚との経験を活かし、探偵事務所で探偵として働いている。

 それも、草津千里が所長として、新たに設立した探偵事務所で。

「結婚ぐらいしてますよねぇ? 若瀬先生イケメンですもんねぇ」

 若瀬が結婚していことに少しばかりショックを受ける小泉。

「そんなことないですよ! 妻には、いつも苦労掛けてばっかりですし。でも、やっぱり、家族がいるっていいですよ! 家族の為に頑張ろうって思えますし!」

 ※離婚している

「ですよね? 私も、早く結婚したいですけど、その相手がいないですよね?」

「そうなんですか? 小泉さん、かわいいし、男性がほっとかないと思いますけど?」

「先生! お世辞が上手ですね?」

「お世辞じゃないですよ! 本当に小泉さん! かわいいですよ!」

 昴は、お世辞ではなく、本当に小泉の事を可愛らしい女性だと告げる。

 しかし、そんな昴に、小泉は、苦笑いしながら、

「ありがとうございます。でも、やっぱり、片想いの傷が癒えない限り、結婚はできないかな? あぁ! すみません!」

「あぁいえ。こちらこそ! 辛い記憶を思い出させてしまってすみませんでした」

 申しなさげに頭を下げる昴。

「頭を上げて下さい! 片想いって言っても、私の一方的な片想いで、告白すらできなかったです。それに、結婚してるんです。私の片思いの相手。だから、最初から叶う訳なかったです。私の恋。すみません。私、若瀬先生になに言ってるだろう! ごめんなさい! 渋谷ちゃん! 私、ちょっとお手洗いに行ってくるねぇ!」

「ちょちょっとここ小泉先輩!」

 涙を拭いながら、テーブルから離れていく小泉。

 そして、昴と再び二人っきりになってしまった渋谷。

「あの……若……」

「ねぇ? 小泉璃菜さんが、片想いしてた人って、堂城誠也晴海副編集長だよねぇ?」

「なんであな……若瀬先生に関係ない話しですよね?」

 危うく、口に出してしまう所だった。

 でも、なんでこの人が知ってるの?

 渋谷が意味が解らず首を傾げる。

「ふぅん。やっぱり教えてくれないか? でも、あの人は辞めといた方がいいよ? あの人の目には、今も昔も奥さん(堂城樹利亜)しか見えてないから。それに……」

 会話の途中で言葉を切り上げ、自分の顔を渋谷の顔にギリギリまで近づける。

「渋谷さんって? よく見るとかわいい顔してますねぇ? 好きな人とかいないんですか?」

「今は、仕事が恋人なので。それに、私、恋愛に興味がないんです」

「そうなんですか? 渋谷さん! かわいいから、凄くモテると思うけどなぁ?」

「ありがとうございます。それより、若瀬先生は、奥様のどこに惚れたんですか?」

「えっ? あぁ……甘えん坊な所かな? 僕の奥さん。普段は、男勝りで皆に凄く頼りにされることが多くて、けど、僕の前では、凄く甘えん坊なるんだ」

「そうなんですか? やっぱり、旦那さんの前だと奥さんも素に戻るですね?」

 口では、いい言葉を言ってるが、表情は少し引いている。

「本当、愛おしいよねぇ? だからこそ、どんな手を使ってでも、愛する人の笑顔を護りたい。例え……その行為が人として許されない行為だとしても。でも、渋谷さんなら、解るよねぁ? だって……」

 昴は、二人しかいないのにあえて、渋谷の耳元で囁く。

「……貴女のお父さん。不倫されたんですよね? それも、貴方の小学生の頃? 貴女の担任の先生と?」

「なんでそ……若瀬先生! 貴方一体?」

「……僕は、ただの作家兼花屋ですよ? それ以上でもそれ以下でもありませんよ!」

 意味深な余韻を残す昴。

「……」

 しかし、渋谷はなにも言葉を返すことができない。

 当たり前だ。

 彼が、自分に対して言ってきた事は、小学生時代渋谷家に起こった本当のことなのだ。

 渋谷の両親は、渋谷が小学3年の頃、父親(38)と当時渋谷の担任だった女性教師(25)との不倫で破滅した。

 その後、渋谷は、両親は離婚し、彼女は、母親に引き取られ、母親と一緒に母親の実家に戻った。

 そして、母親の両親と中学に上がるまで一緒に暮らしたのち、同窓会で、偶然再会した幼馴染で同級生の渋谷侑依(42)と再婚した。

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