第62話

「…返して!?」

「わぁ! お客様。大丈夫ですか?」

「えっ! ここは?」

「スタッフの休憩室です。お客様、どこか痛みますか? いきなり店の中で倒れたんですよ?」

(えっ! だったら…あれは夢? でも…)

 樹里は、自分の唇に触れる。

 その瞬間、樹里の耳元に…

『ご馳走様』

「えっ!」

「やっぱりどこか痛みますか?」

 だけど、声が聞えたのは、その一瞬で、次の瞬間にはもう聴こえなくていた。

 自分の事を、さっきから自分に声を掛けてくるショートカットの女性が心配そうに見つめてくる。

「あぁ! 大丈夫です。あの? さっきまでここにいた男性は?」

 樹里は、いまになってようやく、鳴海坂昴が居ない事に気づく。

「あぁ…昴君ですか? 昴君なら配達に行きましたけど? あぁ! もしかしてあいつになにかしされましたか?」

「あぁぁ違います! ただ、彼にもお礼を言った方がいいと思ったので」

 樹里は、目の前の女性の態度と彼女の左手の薬指に、鳴海坂昴と同じ指輪をしていたので、樹里は咄嗟に嘘をついた。

「あぁ! なんだそんな事か! もうそんな事気にしなくて大丈夫ですよ。それに、貴方を貴ここまで運んだのは…」

 休憩室に、黒いスーツを着た一人の男性が、黒いビジネスバックを持って入ってきた。

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