第61話

「月下美人って神秘な花だと思いませんか? 花から漂う強い香りで、咲き始めた事が解る。そして、月下美人はその名の通り夕暮れから夜に強い香りの花を咲かせて、朝にはしぼんでしまう。そう考えると夜空に咲く月下美人って神秘的なんでしょうね?」

「!? なぁなんで…」

 混乱している樹里に元に一人の男性が背後から近付いてきた。

 それの男性は、何故か月下美人について解説しながら自分に近付いてくる。

 けれどそれ以上に、樹里は、この男「泉石渚」が、どうしてここに居るのかを問い詰めたくて、彼の胸蔵を力一杯、思い切り掴んだ。

 すると、渚は、樹里を引き離すことなく、むしろ自分から彼女の腰に手を回し、自分の方に引き寄せた。

 そして、そのまま、彼女の口元に…

「…はっ!」

 樹里は、渚にキスをされるまさにその瞬間、我に返り慌てて渚を地面に叩きつけた。

(やめて。私の唇に触れていいのは、後にも先にも永輝さんだけ。)

「…ご馳走様でした。貴方の唇ってなんでそんなに美味しいですか?」

「…」

 唇が重ねる前に、渚を突き放したはずなのに…私の唇から、永輝さんと触れ合った感触、温もりが、想いが奪われた。

「…返して」

 私は、地面に突き放した渚の体に飛び乗った。

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