第63話

「灯さん。それじゃ、自分は仕事の途中なので。あぁ! よかった気が付かれたんですね?」

「泉石渚!?」

「お久しぶりです」

「あれ? お二人は、知り合いなんですか?」

「はい。あぁ! そうだ灯さん! よかったら彼女の相談に乗ってあげて貰えませんか? 彼女、今日、僕の親友にプロポーズするんですよ? ねぇ? 若草さん?」

 自分のやってしまったミスに、純粋な目で「お知り合いなんですか?」とキラキラした質問を向けてくる灯に、どう返事を返そうかと悩んだいた樹里に、渚が助け舟を出す。

 けれど、その助け舟は、彼女を助ける物ではなく、むしろ…

「えっ! プロポーズ! おめでとうございます」

「…」

 テンションが、最高潮になってしまった灯に、何も返す事ができない。

「灯さん。貴女が、プロポーズする訳じゃないんですよ? 彼女がするんですよ? もう昴が、嫉妬しても知りませんよ」

「!?」

 彼氏=鳴海坂昴の事が頭に浮かんだのか、頬が真っ赤になっていた灯の表情が、渚の一言で元に戻る。

「灯さん。俺の親友岡宮永輝は、若草樹里さんの事を自慢してくるんですよ? 一度も会わせないくせに自慢の彼女だって。でも、実際会ってみたらあいつにはもったいなぐらいの綺麗な女性で、だから、あいつには幸せになって欲しいです。ぁあ!  もちろん彼女にも」

「渚さん…解りました。私に任せて下さい。この樋宮灯が必ず成功させてみせます」

「…若草さん。結婚が決まったら、教えて下さいね? では、自分は時間が押してますのでこれで」

「…はい」

 今度こそ、出て行こうとした渚は、何かを思い出したのか樹里の方に近付き、耳元に囁く。

『岡宮永輝が好きな花は、月下美人と孔雀草ですよ? それにこの二つ花言葉が乙女チックなんですよ?』

※花言葉:<月下美人:ただ一度の恋 :孔雀草:一目惚れ>

_ゾック 樹里の顔に冷や汗。背中には冷たい風が吹く_

『さぁ? 悪魔の誘惑に負けた可愛い小人よ。さぁ? 戻る事のできない禁断の楽園へ』

★★

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