第55話

『…渚。彼の話ちゃんと聞いてあげなよ?』

「なんで?」

『なんでって? 彼、君に大事な話があったんじゃあないの?』

「さぁ? でも、別に俺が訊く必要ないだろ?」

(あぁ、あいつは、もう偽りの愛に溺れ、自ら死を望んだりしない)

『お前って…本当は、草津千里が好きなんだな?』

「はぁ? 俺が草津を? そんな訳ないだろ?」

 昴の意味不明の質問に首を傾げる。

『…渚? 変わったよな? この6年で』

「お前、本当何言ってんだよ?」

 だけど、今の昴は…そんな恐怖よりも…

『…だったら渚、なんで昨日草津千里を助けた? 君にとって草津千里は、赤の他人なんだろう?』

 昴は、渚の草津千里への本心が知りたかった。

 草津千里は、恋人である茉莉川杏奈に裏切られ自ら命を絶とうとした。

 でも、彼が、自殺する寸前の所でクロユリの花束を持った渚が、自殺を食い止めた。

 自分には、草津千里に肩入れ過ぎだと言っていたのに、自ら意志で草津を助けた。

 だからこそ、渚の本音を知りたい。

「…あぁ! 確かにお前の言う通り、草津千里は俺にとって赤の他人だよ?」

「…だったら…」

 だったらなんで助けたんだよ? まさか…

「…草津千里が今、自殺したら、あいつの家族やあいつの友人が悲しむだろう? それなら自分を裏切った茉莉川杏奈にも同じくらいの一生消えない傷を負わせた方がいい? それも、彼女が自殺するぐらいの大きな傷を」

「…」

 渚は、草津千里を助けたくて助けたんじゃあない。

 草津千里を自分の駒にする為だけに助けたんだ。

 こいつは…本当に美緒さんに以外興味がないんだ。

「…昴。いまは草津千里の事より、岡宮永輝だろう?」

「!」

 電話越しで話しているのに、隣で渚が話しているかのような感覚に襲われた。

 そして、同時に背中に冷たい風が吹いた。 

「昴。ファイナルゲームを始めよう?」

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