第54話
ピィピピィィィィィィピピピピピピ_ 目覚まし時計の音
「うううんんん…またあの夢か?」
ベットの横で鳴り続けている、6年前彼女(古閑美緒)から誕生日プレゼントで貰った自分のイニシャルが捺印された白いネコの目覚まし時計。
僕は、猫が大好きだ。
でも、家族が猫アレルギーで、家で猫を飼う事ができなかった。
だから、美緒がそんな僕の気持ちを汲んで、僕の十六歳の誕生日にこの目覚まし時計をプレゼントしてくれた。
これが、僕が美緒さんから貰った最後のプレゼントと最後のキス。
☆☆
『…泉石? 今ちょっといいか?』
「…草津? どうした? なんか声、死んでないか?」
ここは、渚が生活の拠点にしているマンション。
渚は、草津がどんな用事で、自分に電話を掛けてきたのか、仕向けた本人なのですべて知っている。
だからこそ、あえて心配している感じを出しながら返事を返す。
『…大丈夫。昨日ちょっと眠れなかっただけ』
「あっそ! だったらこんな朝っぱらから何の用? 俺、今日久しぶりの仕事休みなんだけど」
渚は、コーヒーを飲みながら、草津に本来の用件を尋ねる。
渚のこの言葉で、草津は、彼に電話をした本来の目的を思い出す。
『…泉石。俺…杏奈の事、愛してたし、自分が一番幸せにしてやれると思ってた。けれど、それは、俺の思い違いだった。その証拠に、俺達の想いは、いつの間にか別の方向を向き始めてて…』
電話口で愚痴のように、茉莉川杏奈への想いをしゃべり出す。
そんな草津に、渚は、呆れながらも…一瞬羨ましいと思った。
自分は、こいつみたいに、もう純粋に誰かを愛する事はできない。
だからこそ…
「草津。要するにお前に、茉莉川杏奈がもったいなかった」
草津が、全部言い終る前に渚は、強引に話を切り上げる。
『…あぁ! 俺には、もったいない。杏奈には、俺じゃあない方がいい』
電話口から、草津の激しい嗚咽が聴こえてくる。
(茉莉川杏奈。君は…悲しい人だね? 草津は一度、君とやり直そうとした。それなのに君は、草津の愛に気づかず最終的に捨てられたんだね?)
「もう、用事は済んだろう?」
『泉石!?』
電話を切ろうした、渚を名前を呼んで呼び止める。
「まだ、何か用?」
『泉石! 昨日、お前が話してくれた話…」
「俺、来年結婚するんだ」
「おめでとう…って、じゃあ、昨日の話、あれ全部嘘かよ!」
「あんな話信じる方が馬鹿だろう? まぁ? そんなんだからお前、彼女に浮気されるんだよ?」
『せせせせ泉石! お前!』
電話口で泣いていた草津から涙声が止まり、変わりに渚への怒り表に出てきた。
「草津。騙されたからって俺に当たるなよ? まぁ? 元気出せ。 じゃあ、俺、今から彼女とデートだから」
怒りを電話越しにぶっけてくる草津を無視して電話を一方的に切ると、すぐさま(裏の仕事用)携帯で昴に電話を掛ける。
★★
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます