略奪は甘い蜜の誘惑

第49話

※話を一日前に戻す。(12月11日)

「…若草樹里さんですよね?」

 若草樹里は、出版社での仕事を終え夕飯の買い物をする為に職場を出ると、一人の男性が声を掛けてきた。

「そうですけど…貴方は?」

 樹里の不審者を見るような視線と問いかけに渚は、口角を上げた優しい笑顔で、彼女の前にしゃがみ込み、彼女に一束の緋色の薔薇を差し出す。

「初めまして泉石渚と申します。突然お声を掛けてすみません。これは、岡宮永輝さんから貴方が、緋色の薔薇がお好きだと聞いたのでよかったら」

※緋色の薔薇の花言葉:「灼熱の恋」

「えっ! 永輝さんが! 私の事を」

「はい。それはもう耳に胼胝(たこ)ができるほど、自慢してましたよ? 貴方の事」

 嘘。本当は、若草樹里を味方につける為に、昴に樹里の事を調べさせ、彼女を完全に信用させる為に、岡宮永輝の親友として彼女に接近した。

 そして、その思惑は…いとも簡単に達成した。

「かぁああああああ」

 樹里は、自分の両手で赤くなった顔を隠す。

「若草さん! 岡宮は、本当に貴方の事が大好きなんですね? こんなに可愛い彼女なら、毎日でも親友に自慢するわけだ」

「せっせせせ泉石さん! 何言ってるんですか? 私、可愛くないですよ?」

 渚の爆弾発言に、樹里は、周りに人が居る事を忘れて大声を出す。

「遠慮しなくても。若草さんは、岡宮が愛した可愛い女性なんですから」「かぁああああああ」

 さっきよりも樹里の顔が赤くなっている。

「えっ! なんで恥ずかしがるんですか? 若草さん、あいつに、プロポーズされたんですよね?」

「…」

 あの日の岡宮永輝の行為(愛の抱擁と言葉)を思い出したのか、樹里の顔がドンドン真っ赤になる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る