第48話

「…そこに居るんだろ?」

 小屋から一歩山道に入ってきた渚は、目の前に見える大きな木に向かってある人物の名前を呼び掛ける。

 すると、木の影からジーパンに黒いシャツを着た鳴海坂昴が姿を現した。

「…渚…おれ…」

 申しなさそうに、自分の事を見詰めてくる昴に、渚は、微笑みながら彼の居る方に近づいていく。

 そして、彼の隣の立つと彼の顔をまっすぐ見ながら話し始めた。

「…お前の事だから、どんなに突き放してもこの場所にたどり着くと思ってた。だって…」

 _ポン_ 肩に軽く叩く音。

「昴。お前は、俺の相棒(しんゆう)だろ?」

「なな渚!」

 自分の名前を叫ぶながら抱きつこうとした昴を寸前の所で振り払う。

「おい。お前なにか勘違いしてないか?」

「えっ!? おっとあぶねぇ」

 振り払われた衝撃で、前方にあった木にぶつかりそうになった昴は、寸前の所で踏み止まった。 

「俺の最終目的は、岡宮永輝から美緒さんを略奪する事。草津千里の事は単なる気紛れ。まぁ、あいつに死なれたら俺も後味悪いし」

(まぁ、茉莉川杏奈とよりを戻すかは…草津…お前の気持ち次第だよ? けど…幸せにはなれないと思うよ?)

「…渚。お前、やっぱり…」

「うん?」

 首を傾げながら、昴の事を見詰めてくる渚に、それ以上の言葉は言わない事にした。

 言った所で、渚に軽くスルーされるに決まってる。だから…

「お前って、本当美緒さんしか興味ないよなぁ?」

「…昴君? もしかして草津千里に嫉妬した?」

 にやにやしながら昴に顔を近づけてくる。

「なぁぁああ」

「なにお前、乙女みたいに頬赤く染めてたんだよ。気持ちワル」

「渚が、変な事言うからだろ?」

「俺、なんか変な事言った? 言ってないよなぁ?」

 悪びれるどころか、自分が正しいと言わんばかりの渚に、昴は、反抗するのが馬鹿しくなってきた。

「もういい。それより渚。これからどうすんの?」

 昴がこの言葉を言うのを待っていたかのように、ここまで着てきた全ての物を脱ぎ捨て、昴の肩を強い力で握りしめる。

「…ファイナルゲームを始めよう?」

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