第47話
「泉石?」
自分に、なにも告げずに外に出て行こうしていた渚を、慌てて呼び止める。
その呼びかけに、渚は顔だけ、草津の方を振り返り、ニヤニヤしながら、彼の唇を指差す。
「俺が居たら、彼女にキスできないだろ?」
「ななななぁ何言ってるんだよ。お前!」
顔を真っ赤にしながら、渚に言葉を返す・
「えっ! そんなに見せつけといて、しないとか茉莉川さんに失礼だよ? ねぇ?」
渚は、草津の腕の中で、クロユリの花束を大事に抱えている杏奈に、同意を求める。
「えっと…はい」
杏奈も、渚の問いかけに戸惑いながらも、恥ずかし気に「はい」と答える。
その答えが、彼女の本心どうかはわからないが。
「なぁ。俺、邪魔だろ?
だから、邪魔者は居ない方がいいだろう?」
「せん泉石先輩!?」
外に出ようとした渚を杏奈が引き止める。
「あああの? 私……」
言いたい事はもうそこまで出てきているのに、口に出す事ができない。
「あっ! そうだ! 大事な事言い忘れてた」
外に出ようと踏み込んでいた足をうしろに戻し、二人の元に引き帰ると、そのまま杏奈の隣に座りこみ、彼女の耳元に囁く。
『…杏奈ちゃん! 柿谷霧矢が本当に欲しいなら……正々堂々奪いにきなさい。私は、逃げも隠れもしないわよ? だって、私は、柿谷の妻ですから!』
「!?」
渚の悪魔の囁きに、杏奈は、言葉を失うと同時に、意識を失ってしまった。
「……杏奈!」
渚は、意識を失った茉莉川杏奈に、必死に声を掛ける草津の姿を確認するとそのまま小屋をあとにした。
(いまのあなた方には、この花の花言葉お似合いですよ?)
<黄色スイセン>花言葉
●もう一度愛して欲しい=杏奈!
●もう一度やり直そう。(草津から茉莉川)
●私を捨てないで! 私は、貴方が好きなの。(茉莉川から柿谷)
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