第46話

「千里さん!」

「…どうして君が…」

 小屋に入ってきたのは、走ってきたのか、息がうまく整っていない茉莉川杏奈。

「…ごっごごめんなさい。わわたたし…」

 草津に抱きつき、泣きじゃくる杏奈。

「…これ、どうぞ」

_ゾッと_ 背中に冷たい風が吹いた音。

 草津に抱きついていた杏奈は、周りが見えていなかった。

 なので、不敵な笑みで黒い花束を持ち、自分の事を見つめている喪服(漆黒)姿の渚に全く気付く事ができなかった。

「…せんせ…」

 手渡されたのは…いつの間にか追加したのか、それともクロユリメインで見えなかったのか2種類の薔薇が追加された花束。

<白い薔薇:「純潔を失い、死を望む」 黒赤薔薇:「死ぬまで憎む」「化けて出る」「憎悪」「恨み」 クロユリ:「愛」「呪い」「復讐」>

『…罪滅ぼしのつもりですか?』 

 花束を差し出したついでに、杏奈の耳元に顔を近づけ、悪魔の言葉を囁く。 

『そんんそんなつもりは……』

渚の言葉を首を縦に振りながら強く否定する。

『…いま、草津に死なれたら困りますもんね? 貴方も……貴方が一番愛する柿谷霧矢も』

『……』

 けれど、渚のとどめの一言で、否定もむなしく杏奈の瞳から涙が消えた。

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