決意表明
第44話
「草津。君がいまどこで死のうと僕は痛くも痒くもない。けど、いま君に死なれると君の為に用意したクロユリが無駄になる。それだけは勘弁して欲しい。だって綺麗だろ? まさにいまの君を表したかの色づかい」
「…泉石…俺は…もう」
草津の前に差し出された、クロユリ花束。
「…なぁ? だったら復讐しないか? お前の大事な茉莉川杏奈を奪い去った柿谷霧矢に。だって、お前はいまでも愛してるんだろ? 彼女の事を? だったら…」
全てに絶望し、自ら命を絶とうとした草津に、顔を近づけ悪魔の言葉を囁く。
「こんな廃墟じゃなくて、自分の恋人を誑かした相手の前で死ねよ? そして、あいつに思い知らされてやればいい。お前の身勝手な行為のせいで、一人の人間が自ら命を落としてしまったと」
「…泉石。お前なにを」
草津の瞳に、渚に対する恐怖心が浮かんだ。
渚は、その一瞬を見逃さなかった。
「草津。あいつらは、お前が死のうと全然気にしないぞ。それどころか、お前の死後、堂々と結婚するかもなぁ? お前はそれを許せるのか?」
「…あんん杏奈は…そんなことしない」
茉莉川杏奈の名前を必死を呼ぶ。
草津は今でも彼女のことを信じている。
「そうかな? 本人にでも訊いてみたら? あぁ! もう聴けないか」
草津の前に、茉莉川杏奈の携帯のストラップに仕掛けたはずの盗聴器が、自分の目の前に壊された状態で現れた。
「…」
草津の前に差し出されたのは、まさに茉莉川杏奈の23歳の誕生日に草津がプレゼントした黄色いユリと白いユリがセットになったチャーム付き携帯ストラップ。
「…なぁ? このストラップ盗聴器だよなぁ? それも、この盗聴器、俺達が普段使ってる盗聴器だよなぁ? お前、そんな盗聴器を細工してまで彼女に取り付けたのかよ? 最低だな?」
「…」
草津は、何も返す事ができない。
そう俺は、泉石のあの言葉を否定しながらも、杏奈に盗聴器を仕掛けてしまった。
その結果、俺は、知りたくなかった彼女の裏の顔を知ってしまった。
「なぁ? 草津。ユリの花言葉知ってる?」
「!?」
復讐の話から盗聴器の話になった思ったら、今度はユリの花言葉、話題が次々と変わっていくので草津は、いつの間にか自殺するのが馬鹿バカしく思えてきた。
「花言葉は、色、種類によって意味すら違ってくるだろう? 人間だって関わる相手によって態度や性格だって変えるだろ?例えば、お前が、彼女に贈った二つのユリだって、白いユリの花言葉は、純潔、威厳。で、もう一方の黄色いユリの花言葉は、偽り、陽気。そして......」
草津に渡した、クロユリの花束から一輪だけ抜き取り、彼の頬に押しつける。
「このクロユリの花言葉は、愛、呪い、復讐、恋の魔術師、狂おしい恋、独創的、ときめき。なぁ、草津。クロユリってすごい花だと思わないか?」
「ふっふふ。お前そんな為言う為だけに用意したのかよ!」
満面の笑みで、クロユリがすごいと伝えてくる同僚に、恐怖を覚えながらも、自分の置かれている状況と似ている現状に笑いが込みあげてきた。
「…俺にも、結婚を誓い合った恋人が居た。けど…」
「泉石?」
明らかに、さっきまでと様子の違う渚に、草津は心配そうに渚に近付き、彼の名前を呼ぶ。
「…なぁ? 結婚まで誓い合った恋人が、急に姿を消して、数年後偶然再会したら、自分以外の旦那が居て、その旦那は旦那で、妻が居るのに他の女性とに結婚申し込んでたらお前ならどうする?」
「…お前、自分がなに言ってるか解ってるのか?」
渚が、あり得ない事を自分に問いかけてきた。
でも、渚から返った次の言葉に言葉を失った。
「解ってるよ? じゃあなかったらこんなバカげた質問なんかしない」
そこに居たのは真面目な同期ではなく、一人の女性を純粋に愛する一人の男性。
「…奪い返せよ? こんな所で死んでる暇があるなら」
黒縁眼鏡を投げ捨て、草津の腕を掴み体ごと壁に叩きつけた。
その瞬間、小屋の外から声が聴こえてきた
『本当に、ここに千里さんが居るんですか!』
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