第43話

『……そんな事の為に、俺達は、お前たちに利用されたのか!』

「……堂城さん。貴方に、渚を軽蔑できますか? 自分の本当の気持ちを隠して、好きな人に自分の気持ちを打ち明けず、好きな人からずっと逃げ続けた貴方に、あいつを泉石渚を軽蔑する権利なんてありません。渚は、愛した人との約束を守りながら、6年の間ひたすらずっと美緒さんの帰りを待ち続けた。それに比べて、いまの貴方は……じゅ」

『樹利亜は、関係ないだろ!』

 昴の言葉を遮るように、樹利亜の名前を叫ぶ

「そうですね? じゃあ? 滝川春さん。彼女は、どうなんですか?」

「えっ?」

 昴の言葉に、堂城は、言葉に詰まる。

「だって? 滝川春さんに、まるでくち五月蠅い小姑とみたいに、連日のように鳴海坂昴に告白しろって言う癖に、自分は、親友の幸せの為に自分の恋心には蓋をする。そんな中途半端な人間より、よっぽど渚の方が人間らしいですよ? だって、あいつ、この6年間、美緒さんに以外誰も愛していない」

<……私は、彼を、渚くんの為にも忘れないといけないんです。渚君がいまでも大好きだから>

<私は、ずっと堂城君。貴方のことが好きだったんだよ? なのに、なんでこの恋に気づいてくれなかったの? 私、ずっと待ってたんだよ>

 俺は、泉石渚を否定できない。

 むしろ、あいつの気持ちが痛いほど解ってしまった。

 なんで、あいつが、俺たちにウソまでついたかまで。すべて。

「堂城さん。貴方は、一番あいつの気持ちが解るはずです。だって、貴方ほどどっちらの立場も体験した方なんて、滅多に居ません。それだけに、堂城さん。貴方の力が必要なんです」

『……俺の負けだ。俺は、お前たちの言う通り、俺は、七瀬樹利亜を愛している。七瀬純也から奪いたいほど、彼女を愛し、彼女のすべてを求めている』

「……ご馳走様です。でも、うらやましいです。そこまで愛して貰える樹利亜さんが」

「なぁ! 俺は、別に…』

 電話口から、昴のにやにやした笑い声が聞こえてくる。

「……堂城さん! 柿谷霧矢にいますぐ連絡を取ってください。お願いします」

『…鳴海坂? 何があったのか?』

 声が、さっきまで違い、緊急を要していると察した堂城は、自分の頬を一度軽く叩き、真っ赤に染まった顔、気持ちを現実に引き戻す。

「…早くしないと、人が一人死ぬかも知れないんです!」

『…人が死ぬ? どういうことだ!」

 電話口から聞こえてきた緊迫した声に、危機感を覚えた堂城は、周りを確認に誰も居ない事、誰にも聞かれていない事確認し、一応、もしも時の時の事を考え、小さな声で昴に説明を求める。

「……本来は、柿谷霧矢の力は借りたくはありません。けれど、いまは、1秒でも時間を無駄にできない状態なんです。でも、彼の命を救うには、柿谷霧矢の力を借りるしか方法がなんです。だから、お願いします。俺は、渚の為にも、彼を助けたいです」

『おいおい待て! 死のうとしてるのは、泉石じゃあないのか? 俺は、てっきりあいつが死のうとしているのかと』

 堂城は、てっきり渚が、自殺しようとしていると思っていたので、話が違うと昴に、待ったをかける。

「違います。死のうとしてるのは、渚ではありません。でも、死のうとしているのは、渚が、自分の次に信頼している職場の同僚です。そして、その原因は、幾度なる裏切りです」

『……まさか、裏切りの相手ってまさか……』

「……柿谷霧矢です。柿谷霧矢は、妻子が居ながら、10歳も年の離れた部下と不倫関係になった。その関係は、激しいキスから、体を激しく抱き合う肉体関係にまで及んでいた。だからこそ、その関係を知ってしまった彼は、ショックを受け、全てに絶望し、自殺する事を選んだ。そして、渚は、そんな彼に、クロユリを届けに行ったです」

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