第39話

三十分。謝罪会見=文彦和也引退会見が終わり、会場から出てきた二人は、遅めの昼食をとる為に、会場近くのカフェに入ろうとした…その時、堂城のスマホに電話が掛かってきた。

 堂城が、相手を確認する為に画面を見ると…泉石渚と出ていた。

「!?」

 堂城は、思わず電話を持ったまま固まってしまった。

「先輩! 電話誰からだったんですか?」

「!?」

 滝川が、うしろから画面をのぞき込んでくる。

「春ちゃん!? ごめん先カフェに入ってて!」

 滝川の声で、生き返った堂城は、彼女を自分の近くから引き離す。

「えっ! もしかして、例の噂の彼女さんからですか?」

 からかってくる滝川に、堂城は確実に引き離す為に嘘をつく。

「……犬塚編集長」

「…先行ってます」

  脱兎のごとく、逃げるようにカフェに入っていく。

 滝川の姿が完全に見えなくなったのを確認して堂城は、通話ボタンを押す。

『堂城さんは、ピンクのゼラニウムは、お好きですか?』

「…渚ちゃん!? どうした急に?」

 ピンクのゼラにウムの花言葉は……「決心」「決意」「疑い」

 そこから連想されるのは、ただ一つ泉石渚は、駒である自分達と決別しようとしている。

 それも駒である自分達の意思を無視したまま。

 そんなの許さない。

 あれだけ、自分達の弱みを握り、触れて欲しくない心の内にまで入ってきたくせに、自分だけ逃げるなんて絶対許さない。

『…樹利亜さん。七瀬龍治と離婚しましたよ。先月末に、貴方と結婚する為に』

「えっ!」

 泉石渚ぬ今の居場所を問い詰めようとした瞬間、電話口の渚の口から飛び出した驚きの情報に、手からスマホが落ちる。

『……リナリア。よかったですね? 10年越しの初恋が実って』

 道路に落ちたスマホの通話画面から聴こえてくる渚の声。

 その声の最後に、電話が切れた。

 そのあと、堂城が何度もかけ直しても、渚に電話がつながる事はなかった。

 それどころか、泉石渚に関するすべての情報、痕跡が、堂城のパソコンからいつの間にか消えていた。

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