リナリア

第34話

『柿谷霧矢。堂城さん。貴方は、ご存じですよね?』

『そんな奴、知らない』

『そうですか? だったら、これは、貴方ではないんですか? ここに映っている黒い帽子ではっきり顔は見えませんが、七瀬樹利亜と思われる女性と何やら楽しそうに談笑している男性、それも、一回ではなく、何度も二人きりで楽しそうに談笑していらしゃいますよね? 本当にこれ、貴方ではないんですか?』

『...お前。どこでこれを』

そこに映っていたのは、自分がよく行く居酒屋で知り合った探偵の柿谷霧矢に依頼し、捜し出して貰った彼女と久しぶり会った日の自分達の姿。

この男の言う通り、彼女とは、1回ではなく、あのあと5回は会っている。1回目以降はすべて彼女から』

『七瀬樹利亜……彼女は、僕の依頼人なんです』

『!? 嘘だ!』

 渚の胸蔵を今まで以上に力強く掴みあげる。

 その衝撃で手にしていた紫陽花の花が茎から離れ、花びらだけが空中に舞い上り、二人の頭上に紙吹雪みたいに降り注いだ。

 その光景に、慌てて二人を止めに入ろうとした昴は、渚の考えが読めてしまった。

 泉石渚の時間は、あの日から止まっている。

 あの日から、彼女以外の人間と深く関われないようになった。

 それは、4年ぶりに再会したいまも変わっていない。

 むしろ、4年前より悪化していた。4年前は、必要最低限の交流は行っていた。

 けれど、探偵になったあいつは、過去に古閑美緒と関わりを持った人間を徹底的に調べ上げ、彼らの弱みを握り、その弱みを盾に彼らを脅し情報を訊き出すだけではなく、弱みを話さない変わりに彼らを自分の駒にまでしてしまう。

(…お前、まさか)

 昴のその予想は、すぐさま現実になった。

『…どうして、樹利亜さんを拒絶するんですか? どうして、その気がないなら、リナリア……そして、キスなんてしたんですか!」

『なんで…』

 泉石渚が、どうしてそれを知っているのか訊こうとした瞬間、

「堂城先輩!」

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