第33話

6年前に出会った彼女とは、手紙で交流を続けた。

 しかし、彼女の高校の卒業が近づくにつれて、彼女からの手紙が全く届かなくなった。

 届かなくなる前に、届いた最後の手紙に書かれていたのは、今考えると、別れの言葉だったのかも知らない。

_堂城さん。新しい夢をようやく見つけました。それも、とても大きな夢を_

★ ★ ★

「…堂城さん。貴方が知っている彼女に関する情報を教えて下さい! 渚をもう一度、彼女に会わせてあげたいんです」

「…鳴海坂さん」

 自分に対して、昴が頭を下げる。

 その顔は、純粋に友を想う、親友の顔、そのものだった。

 けれど、堂城自身も、今現在の古閑美緒の所在までは解らない。

 理由は、彼女との手紙は1年で終わってしまったから。

「…鳴海坂さん。すみません。自分も彼女と会ったのは、6年前なので、いま彼女がどこに居るまでは解らないんです」

 これは、嘘ではない。けれど、泉石渚のあの姿を見た後だと少し、心が痛む。

 自分も本当なら教えてあげたい。

「…堂城さん。やっぱり貴方も七瀬龍治と同じですね?」

 ロケットネックレスを見つめていた渚が、立ち上がり、どこから取り出したのか、堂城の胸元に一輪紫陽花を押し付ける。

 ※紫陽花の花言葉は、貴方は、冷たい人ですね。

「渚。君は、一体言ってるんだ! 堂城さんが、七瀬龍治一緒な訳ないだろう! それは、君が一番君が解ってるだろう!」

 渚が、取り出した紫陽花は、昴が渚に頼まれて用意した花ではなかった。

「…昴。僕が、彼に求めているのは、彼女の事じゃないよ」

「!?」

「僕が、彼に求めているのは……」

 渚は、昴に聞こえないようにそっと堂城の耳元に近付き……ある人物の名前を呼んだ。

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