第27話
「初めまして、鳴海坂昴と申します。よろしくお願いします。普段は花屋で働いています。なので、コレよろしければどうぞ」
3人に花束(プリザードフラワー)を配る。
※三人に渡した花。
<穎川泉:マリーゴールド・クリスマスローズ・アネモネ>
<堂城誠也:リンドウ・クローバー>
<七瀬龍治:紫陽花・ムラサキツユクサ>
「あの? 昴君…」
花束を受け取りながら昴にさっきの事(黒い薔薇も含む)を訊こうと、穎川が彼の名前を呼ぶ。
「穎川さん。やっぱりアイドルって大変なの?」
「えっ!」
穎川の声に、昴の声が重なり穎川の質問は、最初からなかったかのようになってしまった。
「だってその変装もファンや週刊誌対策なんでだよね?」
警備員姿の穎川を指差しながらにこりと笑い掛ける。
穎川のこの変装は、依頼人が渚君じゃあなかったら絶対やってもいない。
それに普段の彼女は、変装すらしない。理由は普段の彼女とギャップがあり過ぎる為、本当に仲のいい友人、親ですらホワイトハニーで歌っている穎川泉が本人だと気づかない。
「…昴。穎川さんが困ってるよ」
渚が、昴と穎川の間に割って入る。
「…穎川さん。ごめん」
穎川に向かって頭を下げる。
「昴君。私なら、大丈夫だよ」
突然頭を下げだした昴に、慌てて頭をあげる様にお願いする。
「…穎川さんってかわいいね?」
可愛いと面と向かって言われてしまった。
誠也さんはキスはしてくれるけど「かわいい」とは絶対言ってくれない。
理由は解ってる。誠也さんが好きなのは人気アイドルの穎川泉で、穎川泉自身に誠也さんは恋すらしてない。
私は、アイドル「穎川泉」じゃあなくて普通の穎川泉として七瀬龍治に恋をしているのに…
「…かわいいなんてはじめて言われた」
「穎川さん。ちょっとじっとしててね?」
黒い薔薇が刺繍された白いハンカチでそっと穎川の目元を拭く。
「…はい。これでもっとかわいいくなった。けど、穎川さん。泣きたい時は泣いてもいいんだよ」
「昴君!?」
ハンカチを持ったまま昴がニコリ微笑む。
けれど、それも一瞬で穎川が瞬きをして昴を見た瞬間…穎川はその場に凍り付いた。
そこに居たのは、さっきまでの優しい昴ではなく…
「…皆様本日は、泉石渚主催の晩餐会にお越し頂き真にありがとうございます。それでは皆様お席にどうぞ」
「…昴君だよね?」
そこに居るのは確かに昴のはずなのに明らかにさっきまでと様子がまるで違い過ぎる。
それに、ここはどこ? 警察署の前に居たはずなのに…ここは、家? それとも…
「…どっちらでもありませんよ」
「びっく!」
恐る恐る後ろを振り返る。
「…穎川泉様。先ほどは私の相棒が失礼をいたしました」
肩まで伸びた髪を後ろで束ね、さっきまで少ししか見えていなかった眼鏡越しから見えた瞳がまっすく穎川の瞳を捉えて離さない。
「ななぎさくん!?」
「穎川様。どうかなさいましたか? 顔が赤いですよ?」
渚の左手が穎川の頬に触れる。
「なななんで急に敬語になってるの?」
「…それは…ここが…時空と空間の狭間だからですよ? なぁ? 相棒」
渚の問いかけに、彼の後ろからさっきまで身に着けていなかった黒のロングコート(黒いジャケットは着ていない)に、銀色のフチなし眼鏡を身に着けた鳴海坂昴が現れた。
そして、昴も渚同様穎川への話し方が敬語に代わっている。呼び方も。
「…俺のセリフ奪うな! あぁ! これは失礼いたしました。穎川様。こちらへどうぞ! 皆様がお待ちです」
穎川に左手を差し出す。
「ちょっと待って!? 二人ともちゃんとわかるように説明して!」
差し出された手を掴まず渚と昴の肩を掴む。
「…七瀬龍治を振り向かせるために、メンバーとファンを裏切ったのに彼は、アイドル穎川泉にしか振り向いてはくれなかった」
「!?」
肩を掴み、説明を求めたはずなのに…渚の口から紡ぎだされる言葉は、私と彼しか知らない事
「大学時代、当時堂城誠也が好きだった女性を奪い、その女性と結婚し、その事を隠し、自分のキャリアUPの為だけに人気アイドルに近づき好きでもないのに利用するだけ利用して捨てるなんて七瀬龍治ってひどい奴だよね? まぁ渚、君よりかは全然かわいいけど。けど人は見掛けによらないね?」
「あぁ! 俺に比べたら全然かわいいけど。穎川様は七瀬様の事が今でもお好きなんですよね?」
「女性に恋愛に関する事を直接聴いたら駄目だよ。例え相手に恋心すらなかったとしても彼女は真剣だったんだから。ねぇ? 穎川様」
「…」
穎川にはもう二人に返事を返す力もそこから立ち上がる残ってはいなかった。
残ったのは彼らから貰ったプリザードフラワー。
<穎川泉が貰った花の花言葉>
・アネモネ:嫉妬の為の無実の犠牲
・クリスマスローズ:スキャンダル
・マリーゴールド(全体の花言葉):嫉妬・絶望・悲しみ
★
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます