第26話

「…もう、龍治さん! 堂城さんと仲直りしたいんですよね?」

「えっ!」

 七瀬が…俺と…

「…穎川! 俺はそんな事…」

「なんで、今更隠そうとするんですか? 誠也さん! 渚君に依頼してましたよね? 堂城さんの住所が変わってないか。それに、今日の事件だって…」

「えええ穎川!」

「おい! 今日の事件ってまさか!」

 堂城は、相手が人気アイドルだと言う事を忘れて肩を強い両手でつかんだ。

「痛い!」

 穎川は、掴まれた痛みで顔が淀んでいく。

 けれど、堂城は怒りが頂点にきているので彼女のそんな様子全く気づかない。

 それどころか掴み力が益々強くなる。

『…その手離して貰えませんか?』

「誰だ!」

 3人しか居ない空間に、突然自分達以外の声が聴こえてきた。

 けれどそこには誰も居ない。

「えっ! でも確かに…」

 堂城が周りを捜しても声の主がどこにも見当たらない。

『僕ならここに居ますよ?』

 また、堂城の耳にあの声が聴こえてきた。

 すると、紺色のシャツに黒のジャケットを羽織り、黒いズボンを着た、革靴を履いた長髪姿の男性が、堂城の目の前に突然姿を現した。

「!?」

「穎川さん。大丈夫? 貴方最低ですね? 女の子にこんな事するなんて」

 堂城を睨みつけながら彼女を引き離す。

 そして、穎川を自分の元に引き寄せる。

「…昴くんだよね?」

 穎川は、昴の顔をマジマジと見詰める。

「穎川さん。同級生の顔忘れちゃったの?」

 昴の顔、唇が穎川の唇に触れるギリギリの距離まで近づいてくる。

「すす昴くん!?」

 高校時代とはまるで変わってしまった昴に思わず頬が赤く染まる。

(…準備完了)

「…黒い薔薇?」

 突然空から黒い薔薇の花びらが降ってきた。それもかなりの量が。

「おいなんだよコレ?」

 黙り込んでいた七瀬が黒薔薇を見詰めながら叫ぶ。

 一方堂城は昴の胸蔵を掴み壁に押し付けた。

「堂城さん!」

「お前あの探偵の仲間か?」

「だったらどうしますか? 俺をここで懲らしめますか?」

「…」

「…貴方にそんな事できませんよ? ねぇ? 堂城さん」

「「…泉石」」

「渚君!?」

 現れたのは色とりどりの花束を抱えた泉石渚。

 でもさっきとは明らかに雰囲気が違う。

「…昴、君ってそんな趣味があったんだね?」

「…渚。お前それ本気で言ってる?」

「さぁ?」

 ニコニコしながら堂城と昴を見詰める渚。

 そんな渚に昴は呆れながらゆっくり瞳を閉じる。

 _123_

「…はぁ。お前、楽しんでるだろ?」

「!? お前いつの間に!」

 胸蔵を掴み壁に押し付けた居たはずの昴が、いつの間にか泉石渚の横に立っていた。

 これには、堂城だけではなく七瀬と穎川も言葉を失う。

 だって確実に堂城誠也は、鳴海坂昴を壁に押し付けていた。

 これは2人とも確認済み。

 なのに昴は…泉石渚から受け取った花束を自分達に笑顔で差し出している。

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