第25話
(…泉石渚…鳴海坂昴、お前達は、俺達に何をさせる気だ!)
さっきの鳴海坂は、明らかに俺の事を覚えていなかった。わざとなのか?
『…泉石さん!』
警察署から出てきた俺を外で待って居たのは、同じく取り調べを終えたばかりの泉石渚だった。
『堂城さんお疲れ様です。自分も、今取り調べが終わった所です。それにしても冤罪事件に巻き込まれるなんて災難でしたね? だって危うく貴方自身が、黒蝶の最大の目玉になる所でしたね? 雫丘出版副編集長堂城誠也さん』
『お前一体、何者だ!』
『…自分は、ただの探偵ですよ? それも偶然通りかかった』
『そんな訳ないだろう! ただの探偵が偶然会った人間の名前と勤務先、それに階級まで知るはずないだろう。なにが目的だ!』
『目的なんてひどいですね? 折角冤罪から救って差しあげたのに…そんな恩人にそんな事言いますか? ひどい方ですね? 普通感謝するもんじゃないんですか?』
『…お前、本当に何者だ! 普通の探偵じゃあないだろう? 金が欲しいのか?』
『はぁ…むしろ欲しいならあげますよ? いくら要りますか?』手に持っていたカバンからお金の束が入った封筒を堂城の前に差し出す。
『…』
これには、流石に言葉出ない。
封筒の中には軽く見ても二十万以上の金が入っていた。
『…堂城さん。受け取るなら、受け取った方がいいですよ? じゃあないと…』
封筒を見ながら、黙り込んでいた堂城の耳元に渚が小さな声で話し終わった瞬間、堂城の肩を誰かが叩いた。
『君、ちょっといいかな?』
『!?』
自分の肩を叩いたのは警察署の駐車場を警備する警備員の男性。
『あとは、そちらでお願いします。僕は、迎えを待たせているので』
渚は、堂城には目もくれず警備員の男性に一礼すると警備員も渚を引き留めることなく、そのまま堂城を腕を掴み、腰に付けていた無線機でだれかと連絡を取り始めた。
『…解りました』
話が終わると掴んでいた手を離し堂城に向かって突然姿勢を正すと真っすぐ腕を上げいきなり敬礼をしだした。
『!?』
腕を掴まれたと思ったら急に自分に対して敬礼しだした警備員に、堂城は、慌てふためく。
『ななんなんですか?』
『あの方の知り合いだと知らずに無礼を働き誠にすみませんでした。自分は、穎川(えいかわ)泉と言います』
堂城に対して敬礼を解き頭を下げる穎川泉と名乗る警備員の男に、益々状況が理解できなくなってきた。
それでも…彼の会話の中に一つ気になるフレーズを見つけた。
(あの方の知り合い? まさか…)
堂城の頭の中にさっきまで自分と一緒に居たあの男の顔が浮かび上がった。
けれど、もしそうだとして、警備員が自分の事をあいつの知り合いだと言ってくるのか? それに、この穎川と名乗る警備員はさっき誰に連絡を取っていたのか?
『堂城さん!?』
頭の中で色々考えを巡らせていると…穎川が堂城の名前を呼んだ。
『どうして、俺の名前を…』
穎川に飛び掛かろうとした瞬間背後から見覚えのある声が聞こえてきた。
『…私が教えた』
『!?』
二人の前に姿を現れたのは…堂城誠也が最も恐れる存在。
『…もう何やってたんですか? 七瀬先輩! 遅いじゃあないですか?』
『すまんすまん。でもお前だって楽しめただろう?』
七瀬龍治は、穎川泉を自分の元に抱き寄せ唇を奪う。
『…っんんん! 楽しくなんかないですよ』
『…そっか? よく似合ってるが』
『これは仕事だからしょうがなくやってるだけです! 仕事じゃあないなら、男装なんて絶対しません』
穎川と七瀬は、以前から知り合いなのか穎川は、七瀬に対して敬語で話してはいるが、会話会話に二人の仲の良さが伝わってくる。
『…穎川お前は知らないのか? あいつも仕事で女装するぞ! それに今日、お前に男装頼んだのはあいつだ!』
『えっ! じゃあ渚君が近くに居るんですか?』
『…あいつは依頼人であると同時に、今回は事件の関係者だ! それは俺よりお前の方が詳しいよなぁ? 堂城?』
『…』
蚊帳の外状態だったのに急に表舞台に放り出された堂城は言葉を発する事ができない。
すると穎川がまさかの助け舟を出す。
『七瀬先輩と渚君ってどういう関係なんですか? だってどう考えても、渚君と先輩が知り合いなんて絶対変です』
『穎川? それを言うならお前だってどうやってあいつと知り合いになったんだ? 現役アイドルが探偵と知り合いなんておかしいだろう』
『おかしくないですよ? だって私、渚君とは高校1年の頃一緒の教室で授業受けてました』
『はぁ! 初耳だぞ。じゃあお前は、俺が紹介する前からあいつの事知ってたのか?』
『はい。でも、渚君先輩が私を紹介するまで忘れていたみたいなんです。酷いですよね? 同級生だったのに…まぁ、2年生になった頃から本格的にアイドル活動を始めて通信制の高校に引っ越したから覚えてないのはしょうがないですけど…渚くんが、探偵として私の目の前に現れた時は…イケメンになっててすごくびっくりしました』
堂城誠也は、二人の話を訊きながら、頭の中で相関図を作成した。
すると、堂城の頭の中である疑問が生まれた。
(穎川泉…あぁ! どこかで訊いたことがあると思ったら穎川泉って超人気アイドルグループ:ホワイトハニーのメンバーじゃん。それもファン人気6年連続ナンバー1。えっ! 待てよ。穎川泉の話が本当なら…)
堂城の視線が男装する穎川泉に向けれられる。
出版会社の副編集長をしているが堂城はそれほど今の流行に詳しくなかった。
だか、今年の春から自分の元で働くようになった滝川春(25歳)が、流行に敏感なのか自分で使った物、自分が気になる今年必ず来る人物を調べてくるなり俺に報告してくるので色々詳しくなってしまった 。
だからこそ堂城は、今になって大きな問題に気が付く。
(ホワイトハニーって恋愛禁止じゃあなかったか?)
※滝川春からの情報なので信憑性はない
だがもしも本当ならこの状況は…
穎川泉は、男装しているが見る人が見れば彼女だとすぐに解る。
それに彼女と一緒にいるのは…
『…やっと、話す気になったか?」
堂城の視線に気が付いたのか七瀬龍治がゆっくりこちらを振り返る。
『それは…』
『…堂城。きみも自分の立場分かるよなぁ?』
耳元にそっと顔を近づけ小さな声で悪魔のつぶやきを囁く。
『!?』
一瞬堂城の周りにだけ冷たい風が吹いた。
晴天で雲ひとつ出ていない風が吹くなんてありえないのに。
(七瀬。お前やっぱり…)
七瀬龍治とは、大学時代学部こそ違ったがよく一緒に居る事が多かった。
年齢は、1年浪人して大学に入学した自分の方が1つ年上だったが、七瀬はそんなことを気にすることなくむしろ自分が年下扱いされる事のほうが多かった。
だからこそ、七瀬の裏切りが解った時は、ショックであいつと今までみたいに付き合うことができなくなってしまった。
だか七瀬は、今まで通り普通に自分に接してきたが、俺は表に出さないだけで心のどこかであいつに恐ろしさを感じることが多くなった。
そして、大学を卒業を機に俺は、雫丘出版社の編集者に、七瀬は、警察のキャリア刑事になった。
それ以来、俺は、七瀬と連絡を取る事も会う事も辞めた。
★
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます