第21話
「…春ちゃん。あの子に…いや、昴君に気持ち伝えなくてよかったの? 折角渚ちゃんが…」
「…いいんです。いまの私に、渚さんを押しのけて、昴さんの隣に立つ資格はありません」
(…そう、いまの私に、鳴海坂昴さんに想いを伝える資格、それ以上に親友の為に一所懸命になっている彼の邪魔をする権利なんてない)
★
まだ、地元の新聞社の新人記者だった頃、実家の近所にあった花屋で働いていた当時大学生3年生だった鳴海坂昴さんに一目惚れしてしまった。
それからは、彼に近づきたくて何度も彼が働く花屋に通い詰めた。
そして、通い始めて1年。
ようやく、自分の顔を認識され始めたと思ったのもつかの間、いつも通り彼に会いに花屋に行くと彼はもう店を辞めていた。
当たり前だ。私は、社会人で、彼は、大学生。
初めからこの恋が叶うはずなんてないのに…
それから2年の月日が流れ、私は、この春から雫丘出版の晴海編集部に異動になった。
天職を機に彼の事も忘れようと、実家を出て、会社の近くにアパートを借り一人暮らしを始めた。
そして、秋が深まり始めた11月、いつも通り取材を終え、会社に戻る途中急に眩暈に襲われた私は、その場にしゃがみ込んだ。
すると、誰かが私に声を掛けてきた。
『…大丈夫ですか?』
私は、返事を返す為に顔を上げる。そこに居たのは…
『!?』
『昴くん! どうかしたの? 置いていくわよ』
『あ~あの』
彼、鳴海坂昴に声を掛けようとした瞬間…
『昴くんまだかな?』
大きなバラの花束を持った花柄のフレアスカートにパープル色の薄手のニットを着た、パーマをかけた長髪の綺麗な女性が彼の事を睨みつけていた。
『灯さん。いま、今行きます。これ、よかったらどうぞ』
彼は、私に買ったばかりの缶コーヒーを私に差し出すとそのまま女性の元に走って行った。
あぁ、私、また彼に失恋したんだ。
折角彼にまた会えたのに。
でも、あの人に出会って私は、もう一度彼に恋をしてみようと思った。
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