第17話

「…本当、渚って美緒さん以外興味がないんだね? 今更だけど」

「はぁ…お前には、興味持っただろ? 昴」

「そうだったね。そういえば、もう一人忘れてないかい?」

「…忘れてないよ。彼は、大切なお客様だから」

 クロユリの花束を昴から不気味な笑みを浮かべながら受け取る。

「…君に目をつけれる人は可哀想だね? 岡宮永輝は別として」

 昴自身は、直接草津千里に会った事はない。

 だからこそ、渚に頼まれて草津千里の身の回りを観察するようになって、昴は、いつの間にか彼の事が気の毒に思い始めた。

「そう? 俺なんてまだかわいいと思うけど?」

「渚? 君のどこが可愛いのかな?」

 クロユリの花束を胸の前で大事そうに持つ相棒に苦言を呈する。

「かわいいじゃん」

「お前…それ本気で言ってる?」

「当たり前じゃん。じゃあなかったら…こんな格好…」

 泉石渚の恰好は、黒の喪服。それも、漆黒。

 そして、普段掛けている縁なし眼鏡を外し、代わりに黒縁眼鏡を掛け、髪形も肩まで伸びる漆黒のウィッグ。

「…お前…本当…最低だな」

 その姿は、まるで魂を狩りにきた死神。

「ありがとう。褒め言葉として受け取っておくよ。そんな事よりはい」

「えっ! これはなにかな? 渚?」

 昴に差し出されたのは、黒いリュックサック。

「なにって、お前用の着替え。そのままだど不審がられるだろ?」

「いやいや、お前の方が不審がられるから」

 鳴海坂昴の恰好は、ジーパンに黒いシャツ。

 明らかに、昴の恰好の方が誰もどう見ても普通の恰好。

 渚は、昴がこんな反応を示す事は、百も承知済みなので今更驚かない。

 だって、いまから渚がしようとしている事は、本来の目的とは全然関係ないただのお遊び。

 この一件で彼らがどうなろうと渚にとってはどうでもいい。

 しかし、草津千里をここで失うのは痛い。

「あいつ、危ないかもな」

「!? それってまさか…」

 昴の脳裏に…浮かんできてほしくない言葉が何度浮かんでくる。

「…もしかしたら、自ら死を選ぶかも」

「彼は、何も悪くない。悪いのは…」

「…昴。お前あの一件から草津千里に感情移入し過ぎ」

「だって、彼は、裏切られたんだよ! 恋人に!」

 個人的私情に流されているいまの昴に、仕事を任せる事はできない。

 それ以前に自分の都合に昴…こいつだけは巻き込んではいけなかった。

「…昴。お前降りろ!」

「ななななぎさ!」

 急に一人で動くと言い始めた相棒に驚き、彼の名前を叫ぶ。

「…昴。いままで、僕の我儘につきあわせてごめんね」

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