決別
第16話
恋人である茉莉川杏奈と同棲を始めた日、俺は、1週間前から様子がおかしかった同期で、時々パートナーを組む、泉石渚に何かあったのかと声を掛けた。
けれど、そのおせっかいが同期の裏の顔、そして、愛すべき彼女の裏切り行為を知るきっかけになるなんて思いもしなかった。
でも、彼女の携帯のストラップに仕掛けた盗聴器から聞こえてきたのは…突然別れを告げた不倫相手(柿谷霧矢)を必死に呼び止める杏奈の声だった。
『ききっき霧矢さん! 私を一人にしないで!」
6日目前、同期の泉石渚に今日会うはずだった依頼人を紹介して貰うさい、あいつの様子がいつもと違っていたのでその理由を訊ねてみた。
すると、あいつは俺と杏奈が付き合って居る事を何故か知っていた。
皆にも黙っていたのに。
それなのに、泉石は、杏奈の表情だけで俺たちの関係を当てやがった。
俺は、そんなあいつに、自慢するように杏奈との同棲を話した。
けれど、そんな俺に泉石から返ってきたのは、俺自身を奈落底に突き落とす衝撃な言葉。
『可愛い彼女奪われないようにね?』
言われた時は、あいつのいつもの冗談だと思った。
けど、今回は冗談じゃあなかった。
泉石が、なんで杏奈と柿谷課長との不倫の写真を持っているのか、それ以前にあいつがこの事をいつ知った?
あの写真は、ここ最近撮られた物ではなかった。
けれど、今になってはもうどうでもいい。
もう、自分がここから居なくなるのだから。
草津は、盗聴器の電源を切り、代わりに自分の携帯を取り出しメール画面を開き、彼女のアドレスと彼女、茉莉川杏奈への人生最後のラストメッセージを打ちこんだ。
「…これで良し。さよなら杏奈。君に会えてよかった」
杏奈への送信も終わり、用意していた大量の睡眠薬を飲もうとした瞬間…
「…草津千里様は、ご在宅でしょうか?」
誰も来るはずのない、使われていない山小屋の外から自分を呼ぶ声が聞こえてくる。
この場所は、草津の自宅から車で1時間で行ける現在は使われていない元山小屋。
元山小屋なので、携帯電話の電波はつながる。
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