第15話
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「!?」
部屋に鳴り響く携帯の着信音。
「…はい。茉莉川です」
杏は、ポケットから携帯を取り出し電話に出る。
『…杏奈ちゃん?』
「霧矢さん!」
電話の相手は、自分が働く探偵事務所の課長で、不倫相手でもある柿谷霧矢。
「杏奈ちゃん? なにかあった?」
杏奈は、柿谷からのプライベートの電話に出る時は、、草津に疑われないように「はい」としか言わない。
これは、二人で決めたルール。
「霧矢さんが、こんな時間に、電話をかけてきたので仕事の電話かと思って」
杏は、動揺を隠すために嘘をついてしまう。
『ごめん。急に君に会いたくなって』
その言葉を聞いた瞬間、杏の頭にさっき渚に言われた言葉が浮かんだ。
(柿谷課長なら知ってるかも知らないよ。草津の連絡先)
「霧矢さんすみません。これから草津先輩と一緒に事務所で依頼人と会う約束をしてるんです。でも、肝心な先輩が事務所にこないです」
『…』
草津の名前が出た瞬間、急に黙り込む柿谷。
「霧矢さん?」
そんな柿谷を心配するように彼の名前を呼ぶ。
『あぁ! ごめんごめん 草津には連絡はした?』
「はい。でも、やっぱりつながらなくて。だから、泉石先輩に連絡して……」
『泉石に!? あいつ連絡したのか?」
泉石先輩の名前を出した瞬間、杏の会話を遮るように会話に割り込んできた。
「はい」
『なんで、あいつに連絡した?』
電話口から聞こえてくる霧矢さんの声が、さっきよりも怖い。というか、何かに怯えている」
杏奈は、渚の言葉を信じたわけじゃないけど……
「霧矢さん!」
『杏奈ちゃん?』
いきなり自分の名前を呼ばれ、驚く。
「霧矢さんが、千里さんを誘拐したんですか? 私と千里さんを合わせない為に!」
『杏奈ちゃん!? 落ち着いて!』
「…ごめんなさい。霧矢さんがそんなことする訳ないって解ってるのに…」
杏奈の怯える声を電話口で訊いて柿谷は、彼女に向かってゆっくり…
『…杏奈ちゃん。泉石は、俺と君の関係に気がついてる。そして、俺は、あいつにその事で脅されている。不倫の事を妻や職場にバレされたくなければ、自分の言う事を訊けと証拠の動画や写真を手に』
霧矢からの衝撃の告白に、杏奈は言葉を失うと同時に…
「…どうして、私に、相談してくれなかったんですか?」
『…泉石渚は、天使の仮面を被った悪魔だ。あいつが、本気を出したら…君なんて一瞬でやられる』
「…でも、私は…貴方が…霧矢さんが」
貴方が私を、守ろうとしてくれたのが嬉しい。
でも、私は、貴方と一緒に泉石先輩と立ち向かっていきたい。
貴方の温もりは、私を心の底から熱くしてくれた。
貴方からのキスは、私を優しく心まで溶かしてくれた。
例え、それが、それが、千里さんを裏切る禁断の愛だとしても…
『…杏奈ちゃん。終わりにしよう』
「霧矢さん!?」
『…終わりにしよう』
その言葉を最後に柿谷からの電話が切れた。
「ききき霧矢さん! 私を一人しないで!」
どんなに叫んでも、もう、霧矢さんは、私の名前を呼んでくれない。
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