嘘つき

第39話

渚が姿を消す数日前、いつものように、仕事を終え渚が仕事用に借りているマンションで、ちょっと遅めの夕飯を食べていたら…チャイムが鳴った。

『誰だろう? こんな時間に?』

 俺は、食事の手を一旦止め、玄関に向かい、ドア越しの小さい窓から外を見た。

『渚!』

 扉の前に立って居たのは、スーツ姿の渚だった。あと、仕事帰りなのか、右手にはコンビニのレジ袋をぶら下げていた。

『よっ!』

 俺は、そんな、渚の姿にびっくりしながらも扉を開け、彼を部屋に招き入れた。

『渚どうしたの? こんな時間に?』

『どうしたのって? ここ? 俺の家なんだけど?』

『ごめん。でも、渚が、仕事(美緒さん関係)でもないのにこっちの家にくるなんて珍しいね? それもこんな時間に?』

 こっちの家は、渚が岡宮永輝から美緒さんを取り戻す為だけに、借りているマンション。

『そう?』

 渚は、昴の質問に不思議そうに首を傾げる。

『そうだよ? 君は、美緒さんを岡宮永輝から取り戻す為だけに、この家を借りた。いまは、俺が住まわして貰ってるけど』

 そう。渚は、他人に自分の裏の顔が秘密がばれない様に、この家には、必要最低限近づかない様にしている。

 だからこそ、住む家が見つからなかったなかった自分をこの部屋に、代わりに家賃を払う事を条件に済ませてくれている。

『…』

『渚?』

 自分の言葉に急に黙り込んでしまった渚。

『…昴。俺、しばらくこの家に戻ってこないから。それと、しばらく連絡できないから』

 コンビニで買ってきた生姜焼き弁当をリビングの四人用のテーブルに出しながら、昴にそう尋ねた。

『えっ! あぁぁ…解った。無理するなよ? でも、その間、美緒さんはどうするんだよ?』

 渚は、草津千里が突然の自殺未遂に、探偵事務所まで辞めてしまったらしく、彼が担当していた依頼まで担当する羽目になったらしく、毎日を夜遅くまで仕事をしている。

それに、睡眠時間も2時間もあればいいほうたど毎日のように愚痴、家にも殆ど帰っていないかった。

 だから、今回も、また長期間の捜査依頼が入ったのだと思い、全然気にも止めなかった。

『美緒? あぁ! 美緒なら平気。彼女も一緒に連れて行くから』

『えっ! 美緒さんも一緒に? 大丈夫なのか?』

 今までは渚が、自分の仕事場に、仕事仲間以外を同伴させたことはない。

 勿論、裏の相棒である自分であっても例外だ。

『大丈夫も何も今回の依頼、豪邸で飼われてる猫のペットシッターだから』

『ぺぺぺぺぺぺペットシッター! お前が?』

『なんか文句ある?』

『ありません』

 渚は、無類の猫好きだ! でも、探偵の仕事が忙しいので猫を飼う事ができない。

『それで、依頼人でもある豪邸の奥様が、自分が既婚者で、自分と同じく、猫好きの妻が居るんですよっとポロって話したら、じゃあ、お部屋も余ってるからよかったら奥さんもどうぞって誘ってくれたんだよ』

『なんだそう言う事か?』

『なんだと思ったんだよ!』

『えっ! お前が、片時かたときも美緒さんと離れたくなくて、強引にお願いしたのかなと思ったけど違ったんだね? うん。そうだよなぁ? いくらお前でもそこまで私情を持ち込まないか?』

『当たり前だろう! 俺もそこまで…馬鹿じゃあない』

 これが、渚との最後の会話だった。

 それから数日後、渚は、全てを捨てた自分の前から居なくなった。

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