第36話

15時 カフェ

『私は、もう誰ともつき合うつもり気ははないの? だから、悠も、もう私に関わらないで』

 お前は、本当にそれでいいのかよ?

 お前は、本当にもう恋をしないのかよ?

 お前は…

「お客様? お客様?」

「んんんんっ…あぁぁ春! 待って! あれ? もしかして夢?」

 悠は、夢の中の春に向かって叫ぶながら待ってくれと左手を伸ばす。

「ふふっふ! なにあれ? 可愛い」

 悠の叫び声に周りから笑い声が。

「なぁ?」

「あのお客様?」

 周りの声に、急に恥ずかしくなってきた悠に、悠に、ずっと声を掛け続けていた女性店員が、心配そうに声を掛けてきた。

「あぁぁはい!」

「あああの怪我はありませんか?」

「えっ! 怪我? ぁぁぁぁぁ俺のスマホが!」

 店員からの問いかけに、悠は、ようやく自分の状況を把握する。

 そう、もの酷い惨劇を。

 スマホがコーヒーで濡れて全く使い物にならなくなったという惨劇に。

「あぁぁお客様?」

 悠の余りにも大きな声に、女性店員の方がびっくりする。

 そんな女性に、悠は、もう訳なさそうに、コーヒーで使い物にならなくなったスマホを手に頭を下げる。

「あぁ! すみません! 怪我はありません。でも、ご迷惑をお掛けしてすみませんでした。あの? 拭くもの借りてもいいですか?」

「はい! すぐにお待ちします」

 女性店員はタオルを取りに持ち場に戻って行った。

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