第35話

「…そうだったんですか? その連絡が取れなくなった音無さん。今村敦さんの取材に?」

「はい。私も、さっき上司からこの話を訊いてびっくりしました」

私は、あえて悠の事を昴さんに打ち明けた。

 但し、悠と同期で、同僚な事は言っていない。

 堂城先輩から、昴さんは、友人で探偵である泉石渚さん仕事を時々手伝っていると聞いたことがあった。

 だから、きっと昴さんなら悠を見つけてくれる思う。

「あれ? でも、音無さんは黒蝶ですよね? なんで晴海の滝川さんが黒蝶の音無さんを捜しているんですか?」

「そそそそそれは…」  

昴君の疑問は当たり前だ。

 悠は、黒蝶の人間なので黒蝶の人が彼の居場所を捜しているなら、全く問題ない。

 でも、一方で自分は、晴海の人間。

 その人間が別の部署の人間を捜していたら、おかしいと思われてもしょうがない。

「あぁすみません。捜す人間は、大勢居た方が早く見つかりますもんね?」

「あぁはい!」

 私は、思わず昴さんの言葉に同意してしまった。

 本当は、自分のやらなけれならない仕事を放り出して、あてもなく悠を捜しに来た。

 堂城先輩…怒ってるだろうな? 勝手に仕事放り出した事? 怒ってる?

 本当ならこんな所に居ないで早く会社に戻った方がいい…でも…

「でもその音無さんって人は幸せですね? こんなにも多くの…そして、滝川さん貴方にも捜して貰えって」

「えっ! ぁぁ! は…いあやぁ彼が幸せ者? ですか?」

 悠を無事に見つけてきった後の事を考えていた私は、昴君からの以外の言葉に…思わず

「えぇ。だって、いま自分が、音無さんと同じ状態になっても、捜してくれる人はそう多くないと思います。あぁ! 勿論妻や友人は捜してくれる思います。でも、貴女みたいに、部署の垣根を超えてまで捜してくる心優しい人はそういないと思ういます」

「そうですか?」

「そうですよ? 普通なら進んで関わろうとしません。自分に関係ない人なら尚更。でも、貴女は、音無さんと部署が違うのにも関わらず、彼を捜そうとしている。凄いです」

 私がすごい? 私は凄くなんかない?

 私は…ただ…

 ただ何?

 私は、何の為に? 悠を捜しているの?

 悠に…昨日言ってしまった事が冗談だったと謝る為? 

 悠に…やっぱりこれからも友達でいて欲しいってお願いする為? 

 悠は、私にとってなに?

 悠は…私の…

 わたしの…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る