第33話
犬塚編集長から貰った保冷剤が効いたのか頬の痛みもすっかり治まり掛けてきた時、堂城が私を庇う様に彼女の前に立った。
「って、なんで梨々花がここに居るんだよ!」
犬塚編集長のまさかの変貌ぶりに、それどころじゃあなかった堂城先輩がようやく本題を本人にぶつける。
「え? まさかの今更?」
一方のなんで、ここに居るのかと訊かれて犬塚編集長は呆れた様子を見せる
「当たり前だろう。りり…いやぁ編集長が、いきなり目の前に現れたら、誰だってびっくりするに決まってます。それに、相手が犬塚編集長なら尚更です」
いつもみたいに、名前で呼ばないどころか、何故か敬語口調になっている。
そんな堂城先輩の態度に、滝川は一瞬首を傾げたが、すぐさまその訳が解った。
胡桃先輩を始め、晴海編集部のほぼ全員が自分の席からこっちの様子を心配そうにのぞき込んでいたからだ。
「!」
その光景に滝川は、堂城先輩が、自分を殴った所は見られていないだろうかと不安になった。
もし、その場面を見られていたら、堂城先輩は、確実に処分の対処になる。
そうなったら、先輩はもう晴海どころか、会社には居られなくなる。
そんなのは絶対嫌だ! 先輩は晴海に必要な人材だ。
「堂城君?」
犬塚編集長も、堂城先輩の突然の敬語口調に驚きを隠せない。
だか、すぐさま…周りの状況を理解したのか、一瞬目を閉じると…二人の顔を交互を見つめ、二人の名前を呼んだ。
「堂城副編集長。そして、滝川春さん貴方達に訊いて欲しいお話があります」
「!」
犬塚編集長のただならぬ様子とその内容に、私は、堂城先輩の後ろに隠れてしまった。
「…犬塚編…いやぁ梨々花?」
「市議会議員の今村敦が緊急逮捕されたのは知ってる?」
「あぁ! 覚せい剤所持してたんだろう? テレビで言ってたぞ」
それどころか、堂城は事前に偶然とはいえ、その情報を水川と百花から教えて貰っていた。
でも、それをいまここで言えるはずがない。
「あぁぁあのね?」
急にモジモジしだした梨々花に、堂城のうしろに隠れていた滝川が、何かあったのか心配そうに顔をのぞかせる。
「今村敦は逮捕されたんですよ? だったら、もうなにも心配する事ないんじゃあなんですか?」
「そうだよ! 今村敦はもう捕まっただろう!」
堂城と滝川からのダブル指摘に、梨々花は泣き出してしまった。
「り梨々花どうしたんだよ!」
「…今朝、黒蝶の市宮百花さんと一緒に、今村敦議員の取材に行った同じく黒蝶の音無悠君と連絡がつかないの?」
「…えっ?」
「滝川?」
「…悠は、自分に何も言わずにいなくなったりしない!」
滝川は、持っていた荷物を持ったまま、給湯室を飛び出した。
「おい滝川! 何処に行く」
★
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます