第23話

自分の事を助けてくれたのは、以前、取材でお世話になった元警察官で現在はフリーの探偵をしている榎本琢馬さんだった。

「はい! 百花さんお久しぶりです。そんな事より、腕、大丈夫でしたか? 緊急事態だったとはいえ、女性の手を強い力で引っ張ってしまったので」

 榎本さんは、私の呼び掛けに一瞬笑顔を見せながらも、すぐさま、自分が強く掴んでしまった腕を心配してきた。

「腕ですか? 腕なら? ほら腕なら全然大丈夫です」

 百花は、榎本の問いかけに、彼を安心させる為に、証拠ばかりに上下に振った。

 勿論若干痛みはあったが、自分の事を助けてくれたのが、榎本だった事に、痛みのほとんどが吹っ飛んでしまった。

 それよりも、百花は、どうして、榎本がここにいるって、自分を偶然とはいえ助けてくれたのかが気になってしょうがない。

「あぁぁの…」

「でも…びっくりしましたよ? 探偵の仕事で居なくなったペットの猫ちゃんを捜していたら、いきなり、大きな音が聴こえて、音のする方に来てみたら、大きな木が今にも根元から倒れそうになっていたんです。そして、その足元に百花さん。貴方を見つけたんです」

「…」

 なんだ。仕事の途中で偶然、私を見つけたから助けたんだ?

 あれ? 私、今、ネコに嫉妬した?

「百花さん? どうかしましたか? あぁもしかして…」

「あぁぁ大丈夫です。あの? 猫は見つかったんですか?」

 自分の動揺を榎本に感じ取られないように、慌てて話題を変える。

「猫ですか? それが…まだ見つかってないんです。もしかしたら…さっきの大きな音でどこかに隠れてしまったかも知れません」

「そうなんですか? 私も、実家にいる時、ネコを一匹飼っていたんですけど、ネコって大きな音とか余り好きじゃあないですよね? 家で飼って猫も大きな音が聴こえるとびっくりして家の中を逃げ回っていました」

 これは勿論嘘。

 ネコなんて一度も飼った事もない。

 だから、この話も全くの嘘。

 でも…なんだか…今は…榎本さんの興味を自分の方に向けたかった。

「…だったら、僕が捜しているメス猫のモモちゃんも大きな音に驚いて益々どこかに隠れちゃったのかなぁ? って? すみません。いまは、そんな事はどうでもよかったですね?」

(…メス猫のモモちゃん? 名前も自分と一文字違い? ぁあ! 私なに考えてるの?)

「百花さん?」

 榎本から捜しているネコの名前がモモ訊いて、益々動揺してしまう百花。

「ああぁそうですね? ところで榎本さん? 警察に通報した方がよくないですか?」

「あぁぁそうだね? でも…警察への連絡は、もう、別の誰かがしてくれたみたいだよ? ほら?」

 榎本も百花の様子が気になりながらも、木が倒れている道路を方を指差す。

「えっ! 榎本さんそれ本…」

 百花は、榎本の指さす方目を向ける。

 でも…そこには数人の警察官と何故か…手錠を掛けられた今村敦の姿があった。

 だけど、その姿は、明らかにさっき会った時の格好とは違っていた。

 どういう訳が、女性のものウィックを被り、白色のニットワンピースに、黒色のショートコートを羽織っていた。

「…」

 警察に今村敦本人は逮捕されているとはいえ、自分は彼が売人から覚せい剤を買う所を偶然とはいえ目撃している。

 もしかしたら…これをきっかけに本格的に逆恨みに遭うかも知れない。

 今回は、偶然の目撃とはいえ、私はいつもは絶対やらないタイプの仕事をした。

私は、黒蝶であることを誇り思いながらも、危険な仕事はしたくないと心のどこかで思っている。

「…ももか…!」

 突然黙りこんだだけではなく、震え出した百花を見てゾッとする。

 震えていたのが、体全体だったからだ。

 だけど、榎本には、どうして百花が急に震え出したのか理由が分からない。

 でも…明らかに警察が現れたから様子がおかしくなった?

 もしかして、百花さんは何かの事件に巻き込まれている?

 そして、訳あって警察にその事を相談する事ができない? もしくは? 警察に追われている? いやややそれはあり得ない? 百花さんはそんな女性ではない。

 だったら…なんで彼女はこんなにも震えているんだ!

 あぁ! もういい! 

「あぁ! すみません! ちょっと後輩君に迎えが遅れるって電話してきてもいいですか?」

 スマホを片手に震える手をもう片方で押さえながら、仕事の事の事を気にしている百花を前から抱きしめ、彼女のスマホを奪った。

「えええええええ榎本さん! 返してください」

百花は、奪われたスマホを取り返す為に、榎本の腕をつか…

「…百花さん。僕じゃあ信用できませんか? 百花さん。僕は、貴方が好きです」

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