第16話
「…まさかあそこまでとは? 大丈夫かあいつ? あんな調子で」
黒蝶時代の同期で、現黒蝶の編集長水川紘は、自分と梨々花が交際する以前からずっと、幼馴染でもある彼女にずっと恋心を抱いていた。
でも、彼女の自分への恋心と彼女との関係を壊したくない為に、ずっと気持ちを伝える事はなかった。
それどころか、梨々花以外の女性と複数交際をするが、心の片隅に梨々花の事がずっとあって結局、その事が原因で毎回自分から彼女たちに別れを告げていた。
要するに水川紘という男は、犬塚梨々花しか愛さないのだ。
そして…多分…
「…紘なら大丈夫? 貴方と違ってあんなあり得ない嘘なんかつかないから。私、婚活サイトにも登録してないし、彼氏もいないんだけど」
「梨々花!」
屋上に続く階段を下り、晴海に続く渡り廊下を歩いていると廊下の反対側から梨々花の姿が見えたと思ったら、そのまま自分の方に歩いてきた。
そして、堂城の隣に着くなり…
「…どこかの誰かさんが、新年早々食堂で女性を公開ナンパしてたって言うからどんな奴顔を拝みにきたの? でも、まさか堂城君貴方だったとはわね?」
「ごごごごご誤解だ! 俺は、滝川をナンパなんか…あぁ!」
「ナンパの相手、滝川ちゃんだったんだ?」
必死に対抗するあまり、話せなくてもいい滝川の事まで口に出してしまった。
「いやぁ? だから…これには…」
「ふぅっふふふぁぁぁごめんなさい! 解ってるよ? 堂城君。貴方がナンパなんかしてないって。でも、貴方と滝川ちゃんの真実を知らない人から見たらあれはナンパだよ? 誰が見ても?」
「…」
痛いところをつかれ、堂城は黙ってしまう。
確かに、自分と滝川の個人的の状況を知らなかったら、自分の行動は確かにナンパにしか見えない。
でも…
「だからこそ、場所を考えるべきだったねぇ? 滝川ちゃんの為にも? 彼女に大事な用があったんでしょ? それもとっても急ぎの用事が? だったら…もうちょっと女性側の気持ちも考えてあげないと? あんなに樹利亜ちゃんの事になると真剣に考える癖に」
「…」
確かに…俺は、鳴海坂からの手紙を急いで滝川に渡さないといけないその事ばかり意識が集中して、滝川への配慮を考えていなかった。
「まぁ? そこが堂城君。貴方のいい所なんだけどねぇ? でも、誤解とは言え、ナンパ騒動に巻き込まれた滝川ちゃんも災難ねぇ? 好きでもない男の一時的とは言え彼女扱いされて」
「…お前はどうなんだよ?」
「えっ! なにが」
堂城と滝川の事を言っていた梨々花は、いきなり自分の事を言われて、思わず声が裏返る。
「確かにお前は婚活サイトに登録はしていない。けど、年上の外科医の男性から交際を申し込まれているだろう?」
「っどどどどどどそ…あぁ!」
「…梨々花。お前…まさかだと思うけど、その男性と付き会うつもりないよな?」
「そそそそそれは…」
下を向いたまましゃべらなくなってしまった梨々花に、堂城はそっと話し掛ける。
「もし、お前が俺と樹利亜に遠慮して、好きでもないその男性と付き合おうとしているなら、俺も樹利亜もそんなの全く嬉しくない。お前には、本当に心の底から好きになった男性と結婚して欲しい」
俺が梨々花にできるのは、それだけしかない。
「…堂城君」
「梨々花。俺は、お前の気持ちにもう一生答える事はできない。だからこそ、お前には幸せな恋愛と結婚をして欲しい。だから…お前がもし」
だから…水川には、叶うなら梨々花と結婚して、彼女を幸せにして欲しい。
でも、こればっかりは、俺の我儘。
梨々花には梨々花の人生がある。
だから…俺は梨々花の恋を応援する。
その恋が彼女にとって切ない恋だったとしても…
「…心配しなくても、山村さんには私から断りを入れたから」
「えっ! それって」
まさかの真実に今度は堂城の声が裏返る。
「初めから私みたいな女性と山村さんみたいなエリート男性は釣り合わないのよ」
「梨々花」
「もうそんな顔しないでよ。いざとなったら、お見合いパーティーでもなんでも行くわよ?」
「…」
梨々花。君は、綺麗だよ? 俺が知る女性の中で一番きれいだよ?
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