第14話
「市宮なら大丈夫よ?」
屋上に眼鏡を掛けた焦げ茶色髪の男性が扉を開けて入ってくる。
「…水川」
「…市宮は、あなたと違って犯罪ギリギリの行動もしないし、そもそも危険な橋を渡ったりしない。でも、今回は、市宮もある程度危険な橋は渡って貰った。相手が相手だから」
「相手?」
水川は、堂城の隣にくると、彼に向かってある写真付きの書類を見せる。
「あんたも知っているでしょ? 若手政治家の今川敦?」
「…あぁ。でもその男なら、いつもの不倫だろう? だったらそこまで警戒する事ないだろう?」
堂城の言葉に首を縦に振る。
「…俺、何かやばい事でも言ったか?」
黙り込んでしまった水川の口から驚くべき言葉が飛び出した。
「いいよな? お前は、相変わらずお気楽で」
「何だよ? その言い方!」
「あのね? 今回は、そんなお気楽な物じゃあないの! 奴は…ぁぁ! 今のお前に話しても時間の無駄か?」
話そうとして途中で止めた水川に対して…
「おい! 途中で話し止めるな!」
「本当に訊きたい? えっ? どうしようかな? あぁ! そうだ!」
その言葉を告げた瞬間、自分の顔をドンドンまで近づけてきた。
「おい! 離れろ!」
俺は、水川の腕を掴み、奴を引き離す
「だって? 気になるんでしょ?」
「だからって、顔を近づける必要はないだろう!」
「もう、お前は、相変わらず我慢すらできないのかよ! で、本当に訊きたい?」
「あぁ!」
あそこまで言われて途中で話を切り上げられたら堂城じゃあなくても気になるに決まっている。
堂城は、水川の顔をじっと見つめる。
それはもう、キスできるくらいに顔を近づけた。
「…堂城? 本当に、俺でいいのか?」
「はぁ? 何言ってるんだんだ? お前?」
「えっ? だから、今からするんだろ? 俺に?」
「はぁ? なに?」
「だから? キス?」
「はぁ? なんで俺が、お前なんかキスなんかしないといけないんだよ? する訳ないだろう?」
「俺だって、ごめんだよ? お前とするぐらいだったら、死んだ方がまだまし」
今度は、逆に水川が、堂城の腕を掴み、彼を引き離すと、堂城の口元に一枚の写真を張り付けた。
「…何するんだよ!」
堂城は、口元から写真を取り、写真を見る。
「これって……」
写真に写っていたのは、今村が売人と思われる人物から白い粉が入った袋を受け取っている取引現場。
「あぁ! 今村敦は、薬物依存者だ。それも、重度の。そして、そんな奴に、ブツを渡しているのは、渡利組の組員の一人だ」
渡利組とは、違法薬物を闇市で、売り捌くことで生計を立ていると噂されている闇の犯罪グループ。
そんな、闇の犯罪グループといま、巷で有名な若手議員が繋がっている。
「って? ちょっと待て、お前の話しが本当なら、百花は大丈夫なのか?」
「あれ? 堂城? いつの間に、市宮のこと、百花って呼ぶようになったんだ? さきまで、市宮って呼んでいたのに」
堂城がいつも間に百花の事を苗字ではなく、名前で呼んでいる事に驚く。
「今は、そんな事はどうでもいいだろう? それより、百花を行かせて大丈夫なのか?」
「大丈夫に決まってるだろう? それに、いま、市宮は、音無と今村に取材中だ!」
「はぁ? お前正気か? 相手は、百花の顔を見てるかもしれないだぞ! なんで、そんな危険な所に百花を行かせた? 何かあったらどうするんだよ?」
もしかしたら取引を目撃した目撃者として命を狙われるかも知れない。最悪の場合は…
黒蝶時代、堂城も、今の百花と同じように危険な取引きを目撃して、何度か命の危機を経験してきたがその都度、仕事外でできた人脈とそこでえた知恵を駆使って危険を回避していた
あとそれ以上に、自分が「死神」と呼ばれ、恐れられていたから。
けど……
「……堂城。俺、いやぁ? 俺たちは、死神と5年も一緒に仕事をしてたんだぞ!」
「……水川」
水川は、小さく、「市宮。そして、音無は、大丈夫だ」と自分に耳打ちすると、そのまま食堂から出て行った。
百花には、ICレコーダーとUSB、そして、もしも場合の備えて防弾チョッキと防犯ブザーまで準備しているらしい。
そして、極みつけは、私服の刑事数人を事務所の周辺に待機してさせているらしい。
本当、梨々花と水川といい、自分は、人には恵まれている。
★
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます