第12話
樋宮灯は、鳴海坂より7歳年上の29歳。
そして、樹利亜とも知り合いで、短い間であるがフラワーショップ:ホワイトで一緒に働いていた。
でも…まさか鳴海坂と交際しているとはあの時は、思わなかった。
{えぇ。でも、妻には悪いですけど、僕は、余りこの花は好きではありません。だって、なんだか寂しくありませんか? 夕方から夜にかけて咲いて朝には萎れてしまんですよ? それってなんだか儚いって思いませんか? 暗闇に強い香りを出して花を咲かせても見てくれる人は誰も居ない。まるで、叶わない儚い片想いみたいで心が痛くなりませんか?}
「…」
※月下美人の花言葉…儚い恋。儚い愛。
堂城は、今の昴の言葉で全て察した。
これは、鳴海坂ら滝川へのレクイレム。同時に別れの言葉だと。
そして、もうこれ以上、自分には関わって欲しくないという彼からの強い気持ちも込められているに違いない。
確かに、滝川がどんなに鳴海坂を想ってもその恋は永遠に叶わない。
だったら…一日も早く彼の事なんか忘れて新しい恋を捜した方がいい。
でも…俺から見ても、滝川は今でも鳴海坂の事を想い続けている。
あれは…すぐに新しい恋はできないと思う無理だと思う。
それぐらい滝川は、この恋に全ては掛けていた。
{…それでも、儚いからこそ、人を引き付ける魅力があるんでしょうね? 月下美人には}
{鳴海坂…}
もしかして…鳴海坂がいきなり月下美人の話題を出してきたのって…
「…鳴海坂。お前…」
{堂城さん。本当だったら、直接滝川さんに手紙を渡した方がきっと彼女も喜ぶと思います。でも…僕は、彼女の告白を断わった身。それに、滝川さんの自分への恋心を知りながら、ずっと恋人がいる事を彼女に黙っていました。だからこそ…しょくざいにしかなりませんが、彼女には、一日も早く僕なんかへの恋心なんか忘れて新しい恋に進んで欲しい。それが、僕の願いであり彼女への要望です。手紙ありがとうございました。これから仕事なのでこれで失礼します}
お礼を告げて、電話を切ろうとした鳴海坂を
「ななななな鳴海坂!」
{どうかしましたか?}
電話を切ろうとしていた鳴海坂は、堂城の呼び掛けにどうかしましたか? と返事を返す。
「お前大丈夫か?」
{別に大丈夫ですけど}
「そそうじゃあなくて…」
泉石渚が、自首した事をお前は…知っているのか? 知っているなら…お前は大丈夫なのか?
泉石は、鳴海坂と彼の妻である樋宮灯との幸せな未来を護る為に、全ての罪を一人で背負い、自ら警察に出頭した。
そして、取り調べでも一切鳴海坂の名前は出さなかった。
それどころか、彼につながる証拠を闇に葬り去った。
そのおかげで警察が鳴海坂に辿りつく事はなかった。
{…堂城さん。もし、渚の事を心配しているなら…平気ですよ? あいつには、美緒さんがいますし、それに、あいつは、一度、自分で決めた事は、テコでもひっくり返しません。例え、その相手が美緒さんだろうと、渚は、自分の意見を変えることはありません。だから、俺は、何も言わずあいつの帰りを待ちます。例え、何年かかろうとも}
その言葉を最後に電話は切れた。
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