第11話

「鳴海坂。滝川に、一応、お前からの手紙渡したぞ」

{ありがとうございました}

「けど、本当に、自分の手で渡さなくて良かったのか?」

{えぇ! これでいいんです}

 鳴海坂昴から手紙を託されたのは、去年の12月20日。

 奴の結婚式の4日前。

 鳴海坂から、俺の家に、滝川宛のあの手紙が送られてきた。

 だから、俺は、すぐさま、奴に連絡を取り、なんで自分で渡さないだと彼に告げると、鳴海坂は、悲しそうな声が自分にこういってきた。。

 すると、鳴海坂から予想もしていない言葉が返ってきた。

『……切ないくらいに僕のことだけを3年間も、いやぁ? もしかしたら、それ以上想い続けていた滝川さんに、僕の口から、僕のことは今すぐ忘れて下さいって言えますか?」

 確かに鳴海坂の言う通りだ。

 滝川は、最初から叶わないと解っていながら3年もの間、ずっと鳴海坂に片想いをしていた。

 そして、その片想いは、今日の結婚式で完全に打ち砕かれた。

 その証拠に滝川は、今日の式にはきていない。

 最初は、参加するつもりだったが、直前になって参加を取り止めた。

 そんな滝川に、鳴海坂自身が手紙とは言え、別れを告げるのは確かにきつい。

『解った。俺から、渡しておくよ?』

『ありがとうございます。よろしくお願いします」

 そんな鳴海坂の想いをあって、結婚式の次の日に滝川に手紙を渡すはずだった。

 でも…渡せなかった。

いやぁ、渡せるわけがない。

 滝川は3年間、鳴海坂昴だけをずっと愛しづづけ、自分もその恋を一緒になって応援していたからこそ、現実を受け入れる事ができていない。

 そんな…あいつにあいつからの別れの手紙なんて渡す事なんてできない。

「…鳴海坂。お前は、本当は、滝……」

 俺は、鳴海坂に今何を訊こうとした?

 あいつには、もう護るべき妻(灯さん)がいる。

{堂城さん。月下美人ってご存知ですか?}

「…夕方から夜にかけて強い香りを出す花だろう?」

 いきなり月下美人の話しになり、思わず腰を抜かしそうになる。

{…やっぱり知ってましたか?}

「なにか言ったか?」

 昴の声が小さくよく聞こえなかったので、何を言ったのか訊きなおした。

{妻が…好きなんです}

「…ぁぁぁそうなんだ。奥さんが?」

 鳴海坂が言う妻とは、この間結婚式を挙げたばっかりの同じ職場の樋宮灯の事だ。

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