第11話
「鳴海坂。滝川に、一応、お前からの手紙渡したぞ」
{ありがとうございました}
「けど、本当に、自分の手で渡さなくて良かったのか?」
{えぇ! これでいいんです}
★
鳴海坂昴から手紙を託されたのは、去年の12月20日。
奴の結婚式の4日前。
鳴海坂から、俺の家に、滝川宛のあの手紙が送られてきた。
だから、俺は、すぐさま、奴に連絡を取り、なんで自分で渡さないだと彼に告げると、鳴海坂は、悲しそうな声が自分にこういってきた。。
すると、鳴海坂から予想もしていない言葉が返ってきた。
『……切ないくらいに僕のことだけを3年間も、いやぁ? もしかしたら、それ以上想い続けていた滝川さんに、僕の口から、僕のことは今すぐ忘れて下さいって言えますか?」
確かに鳴海坂の言う通りだ。
滝川は、最初から叶わないと解っていながら3年もの間、ずっと鳴海坂に片想いをしていた。
そして、その片想いは、今日の結婚式で完全に打ち砕かれた。
その証拠に滝川は、今日の式にはきていない。
最初は、参加するつもりだったが、直前になって参加を取り止めた。
そんな滝川に、鳴海坂自身が手紙とは言え、別れを告げるのは確かにきつい。
『解った。俺から、渡しておくよ?』
『ありがとうございます。よろしくお願いします」
そんな鳴海坂の想いをあって、結婚式の次の日に滝川に手紙を渡すはずだった。
でも…渡せなかった。
いやぁ、渡せるわけがない。
滝川は3年間、鳴海坂昴だけをずっと愛しづづけ、自分もその恋を一緒になって応援していたからこそ、現実を受け入れる事ができていない。
そんな…あいつにあいつからの別れの手紙なんて渡す事なんてできない。
★
「…鳴海坂。お前は、本当は、滝……」
俺は、鳴海坂に今何を訊こうとした?
あいつには、もう護るべき妻(灯さん)がいる。
{堂城さん。月下美人ってご存知ですか?}
「…夕方から夜にかけて強い香りを出す花だろう?」
いきなり月下美人の話しになり、思わず腰を抜かしそうになる。
{…やっぱり知ってましたか?}
「なにか言ったか?」
昴の声が小さくよく聞こえなかったので、何を言ったのか訊きなおした。
{妻が…好きなんです}
「…ぁぁぁそうなんだ。奥さんが?」
鳴海坂が言う妻とは、この間結婚式を挙げたばっかりの同じ職場の樋宮灯の事だ。
★
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