第66話

「…南浜さん。なんだかすごいお話ありがとうございます。だけど私が、もし南浜さんの立場だったら即行離婚してますね? どうして南浜さんは6年も離婚しなかったんですか? 

 堂城の元を離れた泉石は、マイクを手に取り話終えた樹利亜に質問を投げかける。

「…この人を奈落の底に突きつける為です。普通に離婚しようとしてもこの人は、きっとどんな手を使ってでも阻止しようとするはず。だから、長い時間を掛けてこの人の不倫の証拠を集め、絶対阻止されないような状況を作りました」

「穎川泉さんの事ですよね? 元奥様は、いつから元旦那様の不倫に気が付いていたんですか? 南浜さんは、穎川泉の事をどう思っていますか?」

 黙り込んでいた記者の一人(若い女性記者)が、声を張り上げ何故か、興奮しながら、樹利亜に自分のマイクを向ける。

「この人の不倫に私が気が付いたのは、正直言って半年前です。それも知るきっかけは、自分達がまだ夫婦だった頃の共通の友人からのタレこみです。その人は、ホワイトハニーのライブと握手会には毎回参加するぐらいのホワハニのファンで、その中では穎川泉さんの熱狂なファンでした。だから、今回の電撃引退の本当の理由が不倫だと知っても怒るどころか、不倫相手とされる七瀬龍治対してなんで泉ちゃんなの? 泉ちゃんは、純粋にアイドルをやっていただけなのにと彼の方に強い憎しみを抱いていました。まぁ、その点に関しては、私も賛同します。だって穎川泉さんは、不倫の張本人であると同時に、七瀬龍治に大事な夢を奪われた被害者です。ですから、私は、彼女に、もう一度ホワイトハニーの穎川泉として、歌って欲しいです」

 樹利亜は、泉にメッセージを贈る。

「…穎川泉の事を許すんですか? 不倫されたんですよ?」

「…だから? 言ってるじゃあないですか? 私は、この人の事を一度だって旦那だと思った事はありません」

「…それでも、一度は、夫婦だったんですよね?」

 女性記者は、なんとか穎川対する憎しみの言葉を取ろうと…さらに質問をぶっける。

 樹利亜が、質問に答えようとした瞬間…その手を隣で、今まで黙って樹利亜の会見を訊いていた七瀬が止めに入る。

「確かに、俺と彼女は、先月まで夫婦でした。でも、それは、僕が、自分の仕事の出世の為に、彼女を脅迫し、成立させた脅迫結婚です。なので、俺達の間には、愛すら存在しません。そこで恋愛禁止の人気アイドルグループホワイトハニーの穎川泉に近付き、嘘の情報で彼女を脅し、無理やり自分の恋人にし、元妻では、永遠に満たされる事はない欲求を満たし、時には、自分の出世の為に、偽りの妻役を演じて貰った事もありました。でも、穎川泉さんは、半年前から思い悩むようになりました。そして、電撃引退の一週間前、彼女の方から別れを告げてきました。なので、俺は、そんな彼女に、口止め料として100万渡しました」

「…最低。貴方は、女性をなんだと思ってるんですか!? 女性は、貴方の物じゃあないんですよ?」

 女性記者の怒りは、治まれない。

「七瀬さんうちの後輩がすみませんでした。でも、自分も、貴方の行為は、人としておかしいと思います」

 彼女記者の隣の男性記者が慌てて止めに入る。

 その記者は、彼女の先輩だったらしく、七瀬に彼女の代わりに謝罪を申し出る。

 けれど、しっかり自分の意見も告げてきた。

「お二人の指摘通り、私は、人として最低な事をしました。なので、穎川泉さんに許して貰えるまで何度でも、彼女の元に足を運ぶつもりです」

 七瀬が、穎川泉に対して、改めて謝罪の言葉を告げた瞬間…どこからか、女性の歌声が聞こえてきた。

「!?」

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