第62話

(…樹利亜さん。貴方様の新しい輝かしい未来へ向かって乾杯)

 黒のスーツに、肩まで伸びた黒髪。

 そしてその黒髪に映える銀縁眼鏡を掛けた司会者の男性…泉石渚は、誰にも聞こえないように天井に向かって小さく笑みを浮かべる。

 だか、すぐさま会場を盛り上げる為に、会場全体を巻き込んだ例の作戦を実行に移す。

「記者の皆様、落ち着いてください。南浜様、本日はこのような場所にお越しいただきありがとうございます。わたくしも是非お話をお聞きしたいのですかよろしいでしょうか?」

 渚は、樹利亜に自分のマイクを向ける。

「…えぇ。構いませんよ? 私は、最初からそのつもりできましたから」

 樹利亜も、渚の質問に、怒ることなく、喜んでと笑顔で返事を返す。

「記者の皆さん。南浜さんもこうおっしゃっておりますが、どうなさいますか?」

 と改めて、記者会見場に集まった記者全員に同意を求める。

 勿論、記者からの答えは……イエスだ。

「では、記者の皆様のからの同意も得られましたので、ここで、10分間の休憩挟みたいと思います。申し訳ありませんが、スタッフ方は、椅子をもう一脚お願いします」

「えっ! ステージに…解りました」

 会場の外で、ホテルの清掃のスタッフとして窓ふきをしていた堂城に、中のスタッフからインカム越しに倉庫からイスを取ってくるよう連絡がくる。

(…なんでだよ? 樹利亜)

 連絡を終えた堂城は、いきなり会場に現れた樹利亜の想いと考えが解らず、自分の拳で近くの壁を叩く。

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