第54話

話を12月12日に戻る。 

 広告会社での仕事を終え、自分の家に帰ってきた樹利亜は、昼間、堂城から送られてきたメールをもう一時間も見つめている。

「…はぁ。堂城君にあんな返事、返すんじゃあなかった。きっと堂城君。困ってるよね?」

 私は、堂城からのメールが嬉しくて今すぐ私を迎えにきてと返事を返してしまった。

 けれど、送った後、私は一つの過ちに気づいてしまった。

 堂城君は、私が、今どこに居るか知らない。

 それどころか、あの町から居なくなったことすら知らない。

 だから、扉の向こうから…あなたの声が…聞こえてくるはずがない。

 あれは…私が…生み出した妄想。

「…樹利亜。そのままでいいから君に聴いて欲しい事があるんだ」

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