第52話
「…昴君。渚君、結婚式来てくれるかな?」
樋宮灯が、結婚式の招待者のリストを見ながら、渚が結婚式にきてくるか尋ねてくる。
「…」
昴は、草津千里の言葉が頭をよぎって、灯の言葉が届いていない。
「昴くん! 訊いてる?」
灯が昴の顔を両手で押さえ自分の方に強引に振り向かせる。
「あかかか灯!」
「昴くん! 渚くんは絶対帰ってくる。そうでしょ?」
「はい!」
灯の問いかけに、表面上は賛同したけど、心の中では草津千里の言う通りもう渚の事は捜さず、あいつが自分から戻ってくるのを待った方がいいのでは思う自分も居る。
渚は、美緒さんを略奪する為に他人の弱みを握り、暴かれたくない秘密を暴き、美緒さんを奪うために駒にしてきた。
そして先月(11月)ついに岡宮永輝から岡宮美緒(旧姓:古閑美緒)を奪い取った。
けれど、それを最後に、あいつは俺の前から忽然と姿を消した。
「…そうだ! 昴くん。いまから渚くんに電話掛けてみてよ」
「灯…前にも言ったけど…」
灯も、昴が渚と連絡がつかなくなっている事は勿論知っている。
だからこそ…昴に連絡手段が通話以外にもある事を解って欲しくて、彼のスマホを手に取る。
「…昴くん。連絡手段は通話以外にもあると思うよ?」
「!?」
昴は、渡されたスマホのロックを解除するとすぐさま検索アプリ「検索ポン」を起動させ、表示された検索画面に向けて「泉石渚に連絡を取りたい」と打ち込んだ。
※自分が書いてる他の作品(find out)で、登場する自我を持った検索アプリ。昴は、検索ポンの事を渚から名前を取って「サナ」と呼んでいる。但しこっち検索ポンの声は、自分にしか聴こえないが、サナと会話をするにはこっちは、いちいち文字を打ち込まなければならない。
すると5秒後、サナが一枚の写真を提示してきた。
{昴様。泉石様の居場所は、この方が知っています。ご存知ですか?}
「…」
サナが提示してきた写真には、黒の燕尾服を着た、渚よりも少し背の高い、黒縁眼鏡を掛けた男性が一人写っていた。
でも、昴は、その写っている男性を見た事がなかった。
{…昴様?}
写真を見たまま固まってしまった昴を画面越しに映るサナが、心配そうに見つめてくる。
「ごめんごめん。写真の人についてだよね?。ごめんちょっと解らないかな?」
サナの呼びかけに、昴は平常心を保ちながらも、正直に知らないと答えた。
そんな昴を見てサナが…写真の男についてしゃべろうとした瞬間…
「サナ。やっぱり渚の事はもう捜さない。あいつが自分で帰ってくるまで待つことにする。」
{昴様!? どうしたんですか! 急に}
写真の男性について昴に説明しようとしていたサナは、昴の急な心変わりに戸惑う。
「…だって、渚が自分の意思で居なくなったのに、それを僕の意思で勝手に捜し出す権利はないよ?」
渚…君がそのつもりなら、君が自分から会いにきたくなるぐらい灯さんと幸せになってやる。
{…そうですか。ですが昴様? 灯様にはどう説明なさるお積もりですか?}
灯の事を話題に出されて動揺する。今の今まで、灯にどう説明するか考えていなかった。
「そそれは…正直に言うよ」
{さっきの言葉をですか? それは…やめた方がいいと思います。それよりも、やっぱり連絡がつかなかったと言った方がどっちらも傷つかないと思います。現に昴様は、渚様と連絡を取っていないのですから}
「うっんん。それはそうだけど…けど」
{けどなんですか? 他になにかいい方法があるんですか?}
「そそそれは…」
{ふふうふふ冗談ですよ? 灯様ならきっと解ってくれますよ?}
笑い声と少しばかりの応援の言葉を残して、サナは自らアプリを閉じた。
画面が消えた事を確認すると、昴は携帯を閉じ、灯に視線を戻す。
けれど当の灯は、携帯で誰かと連絡を取り合っていた。
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