第48話

「…滝川、話聞いてたんだろう? 全部」

 扉の前で二人の会話を盗み聞きしていた滝川は、給湯室から出てきた梨々花から、『滝川ちゃん。今日の事は誰にも言わないで お願い!』と念を押されてしまった。

 この言葉の中に、大切な人の幸せの為に、自らの恋を心の中に封印し、必死に前に進もうしている葛藤が見えた。 

 編集長だって、本当は、堂城先輩の隣に居たい。

 だけど、それは、願いはもう叶わない。

 だからこそ、編集長にできる事は、先輩の幸せを願う事。

 その姿は、昴の幸せの為に、自分の想いも告げずまま、恋を諦めた自分と重ねる。

 滝川と梨々花では、恋した時間、一緒に過ごした時間すら違い過ぎる。

 違い過ぎるからこそ、滝川には、編集長の言葉の重みが痛いくらい解ってしまった。 

 そして、同時に、堂城先輩に対する深い愛情と彼と彼が愛する女性との幸せな未来への祝福。

「…あぁぁぁぁぁすみません」

 まさか、堂城の方から話し掛けてくるとは思っていなかったので、一瞬返事に困る。

 しかし、堂城は、そんな滝川を動揺を感じ取ったのか話を進める。

「まぁ? あんな大きな声で話してたら、相手がお前じゃあなくても聞こえるよなぁ? 俺も梨々花も昔から声大きかったから」

 扉の向こうから、堂城の笑い声が聴こえてくる。

 けれど、その笑い声の中に、滝川は、犬塚編集長への深い愛を感じた。

 二人は、いまでもお互いの事をいまでも大切に想っている。

 それは、もう、恋人同士の感情ではないけど、二人の間には、今でも、切っても切れない絆がある。

 それが、目に見えて解ってしまった。

 解ってしまったからこそ、滝川は、堂城に自分の今の想いを話さなければいけないと改めて思った。

 だけど、その想いと言葉は、堂城の言葉によって打ち消された。

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