第42話

(…最初から叶わない恋か…そう思えるって事は、本当に、彼の事を愛してたのね? 私と違って…)

『…犬塚編集長?』

 滝川が、急に黙り込んだ梨々花の顔を覗き込んでくる。

『滝川ちゃん。貴方は、最初から叶わない恋って言っているけど、本当そうだったの? だって、最初から叶わない恋って解ってたら、最初からその彼の事、好きにならないんじゃないの?』

『!?』

 梨々花の指摘に滝川は、驚く。

「あと、私、貴方に謝らないといけないことがあるの?」

「えっ!」

「私……ッ実は、堂城とつき合ってたの?」

『えええええええ!』

 まさかの言葉に滝川は、驚きの声をあげる。

『えっ! そんなに驚くこと?』

 驚く以上の滝川の反応に、梨々花は、首を傾げる。

『驚きますよ? だって、あの堂城先輩ですよ? オネェの?』

 滝川が知っている堂城は、オネェ。

『…滝川ちゃん。それは、間違いよ? だって、堂城君がああなったのは、私と別れた後よ』

『えっ? それって? どういう…あぁ!』

 滝川は、梨々花の顔が、一瞬曇ったのを見逃さなかった。

 そして、その表情に、自分が昴の事を諦めた本当の理由(婚約者)と同じ匂いを感じ取った。

『…ごめんなさい』

 余計な事を訊こうとしたことを詫びる。

 けれど、梨々花は、そんな滝川に笑顔を返す。

『滝川ちゃん。運命って時に残酷って思わない? 元カレとはいえ、数年後、同じ会社に、後輩社員として入社してくるんだよ! それに、私は、彼の夢を知ってるから余計に辛かった』

『あの? 堂城先輩の夢ってなんなんですか?』

 なんなだろう? あの人の夢って?

 私が、興味を示すと、編集長は、

『滝川ちゃん。私が、言った堂城君には内緒よ?』

『はい』

『…わたしとつきあってる頃、教えてくれたの? 堂城君。自分だけのデザインを考えて、小さな会社を作りたいって? だから、時間があれば、その夢を実現する為に、色々なコンクールに自分のデザインを応募してたの。けど結果は、いつも落選で。だから、私と別れる時、その夢を諦めてって聞いた時は、すごく驚いたわ』

『…どうして、夢を諦めたんですか?』

『…滝川ちゃん。夢って、語るだけじゃあ、夢は叶わない物よ? 恋だって同じ。どんなに、自分が相手の事を愛していても、相手が自分のことを愛していなかったら、その恋はもう成立しない。それどころか、相手にとって自分は、邪魔な存在になる。おかしいな話しよね? 一度は愛し愛した二人なのに、気持ちが離れただけで、関係すら簡単に壊れてしまうの』

『…』

 堂城の夢の事を語っていたはずなのに、いつの間にか話が最初に戻っていた。

『堂城君には、復讐するんでしょ?』

『えっえぇえ!』

 急に、堂城に復讐と言われた意味が解らず固まってしまう。

『違うの? だから、ここで泣いてたんじゃあないの?』

『違います! 堂城先輩は、悪くないんです。悪いのは、私なんです!』

 滝川は、相手が編集長だということを忘れて、怒りをぶつけてしまう。

 その反応に、梨々花は怒るどころか……

『…滝川ちゃん。やっぱり、あなたと堂城君似てるわ。他人の為に、自分の気持ちを押し消すところなんて本当そっくり』

 そのまま、滝川の左手を取る。

『ほら、彼のところに早く戻りましょ? 堂城君、きっと心配してるわよ?』

『犬塚編集長!? 編集長は、本当に堂城先輩の事は、もう、愛していないんですか』

 梨々花は、滝川の再びの問いかけに…

『えぇ…もう、彼のことは愛してもいないし、好きでもないわ』

『…でも…』

『だったら? 堂城君に聞きに行く?」

「えっ?」

 犬塚からの予想もしていない提案に、滝川は驚く。

「ほら? 滝川ちゃん! 行くわよ」

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