第23話

少しばっかり時間を戻す。

「……店員さん? 」

「あぁ! すみません」

 樹利亜は、突然店に現れた渚と店長の関係が、気になりながらも、男性に視線を戻す。

「さっき程の方が、おっしゃっていたように、108本の薔薇の花束は、結婚してくださいになります」

「……」

 男性は、何かを考えるかのように、バックの中からスマートフォンを取り出す。

「あの? これ見て貰ってもいいですか?」

 男性は、樹利亜に一枚の写真を見せる。

「これは?」

「僕の彼女です。」

 写真に写っていたのは、病室のベットで眠る女性。

 だけど、普通に病院に入院している入院患者には見えない。

「……店員さん。僕の彼女は、末期のがんで、もうそうに長く生きられないんです。例え、生きられたとしても、長くて半年」

 男性からの思いもしない告白に、樹利亜は言葉を失ってしまう。

 そんな人に、自分は、108本の薔薇を勧めてしまった。

「…店員さん。僕は、彼女と出会って、互いに愛しあって、もしかしたら、僕は、彼女と出会わなければ、一生一人だったかもしれない。そんな自分を彼女は変えてくれた。だから、最後に、もう一度彼女にプロポーズをしたいです。生まれ変わっても僕と結婚してくださいと。なので、店員さん。108本の薔薇を下さい」

 男性は、樹利亜を両手を掴み108本の下さいと申し出る。

  けれど、その申し出を樹利亜自体が断る。

「お客様。8本は、店からのサービスさせて頂きますので、最初のご注文通り、100本の赤い薔薇分の代金だけお支払い頂いてもよろしいでしょうか?」

 樹利亜は、男性の前に100本の赤い薔薇分の料金だけを提示する。

「!? ダメです。 ちゃんと8本分払います」

 男性は、財布から108本の薔薇の代金を取り出す。

「お客様。では、こうしませんか?」

 樹利亜は、男性にある一つの提案をする。

「赤い薔薇の花束代は全てお支払いください。そして、これを店からではなく、私個人から奥様へのプレゼントにさせていただきます」

 樹利亜は、男性から薔薇の代金を受け取ると同時に、男性の手のひらに、一本の黒いを置く。

「黒い薔薇の花言葉は、貴方はあくまで私のもの・決して滅びる事のない愛、永遠の愛

です。最初の方の花言葉だけ訊くと、怖いイメージを頂くかも知れません。けれど、私は、たくさん種類がある薔薇の中で、一番黒い薔薇が好きなんです。黒い薔薇だけなんです。花言葉で、唯一、愛する人への永遠の愛を誓っているのは、赤い薔薇ではもなく、この黒薔薇なんです」

(堂城君。私も、貴方と永遠の愛を誓いたかった)

 男性に、黒い薔薇の花言葉を説明しながら、堂城への叶う事のない想いを抱く。

「……店員さん?」

「はい? あぁ!? 黒い薔薇の返却でしたら、受け付けませんよ? それは、店からではなく、私個人からのプレゼントですから」

「違います」

「でしたら、倉庫から薔薇を取ってまいりますので少々お持ちください」

 _5分後_

「お待たせしました」

 樹利亜が、108本の赤い薔薇を持って男性の前に戻ってきた。

「あの? どうして店員さんは、僕達夫婦にそこまでしてくれるんですか?」

 薔薇の花束を受け取りながら、男性は樹利亜に、どうしてそこまでしてくれるのか尋ねる。

「わたくし達は、お客様に喜んで貰うのが仕事です。ですから、自分は、お客様にとって最善の提案をしただけです」

 樹利亜は、本当は花屋ではなく、雑誌の編集者だと言わずに、ただ一言喜んで貰うのが仕事だと伝えた。

 けれど…本音を言うとは、一途に一人の女性を愛する姿を羨ましいと思ったから。

「…そうですよね? あの薔薇ありがとうございました。妻もきっと喜ぶと思います」

「はい。こっちらこそ、ありがとうございました」

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