第24話

現在の時間に戻る。

 男性を見送り、そろそろ取材の相談しようと、彼の元に行こうとした瞬間、樹利亜の元に、思いもしない言葉が飛び込んできた。

『結婚式場? 昴君達の?』

『当たり前じゃないですか! 他に誰かいるんですか? 結婚する人が』

「…あぁ!」

 _パシャン_

 聞こえてきた「結婚」と言う言葉に、樹利亜は、手にしていた花を入れる前の水が入った花瓶を床に落としてしまった。

「樹利亜ちゃん!?」

 店内から聴こえた大きな音に、白川が慌てて店内に飛び込んできた。

「白川さんすみません。花瓶を割ってしまいました」

「花瓶? もう、心配させないでよ? すごい音がしたから……てっきり何かあったと思ったじゃない」

 白川は、割れた花瓶を手で拾うとしていた樹利亜を押しのけて、掃除用具入れから箒を取り出すと樹利亜の代わりにしゃがみ込み掃除を始める。

「白川さん!? 私やりますよ? 自分の不注意ですから」

 掃除の手を止めることなく、声だけ樹利亜に語り始める。

「樹利亜ちゃん!? 貴方、割れた花瓶を素手で拾おうとしてたわよね? 怪我すると思わなかったの」

「はい。でも、花瓶の欠片も大きかったので、そのまま取った方が早いと思ったので」

 本当は、違う。灯だけでは、白川にもばれているんじゃないかという 動揺を隠す為。

「…6年前、貴方が突然、私達の前から突然居なくなった後、貴方の旦那と名乗る七瀬龍治って人から手紙がきたの? 南浜樹利亜改め、七瀬樹利亜は、私と婚約しましたので、もう、そっちらで働く事はありません。ですので、金輪際彼女に連絡をしないで頂きたい。私達は、この手紙で、貴方がどうして急に居なくなったかを知ったの。でも……」

「……」

 樹利亜は、白川の言葉を無言で訊くだけで、何も答えようとしない。

 確かに、あいつは、フラワーショップ:ホワイトに、手紙を送り付けていた。

 それも、私が、退職願いを出す前に、一方的に。

 だから、私は、何も言う事もできずに、ここを去る事になってしまった。

 だからこそ、白川さんが、言いたい事が手に取るように、痛いほど解ってしまった

『貴方が好きだったのは、堂城誠也さんじゃなかったの?』

「樹利亜ちゃん。私はねぇ? 一人の男性を一途に愛したことがないから、乙女の顔で、愛しそうに堂城誠也君の事を語り、他のスタッフと恋愛話をしてる貴方が憎い時もあったけど同時に羨ましかった。だからこそ、私は、樹利亜ちゃん。貴方は、きっと彼と結婚するだと思ってた。だから……」

 そこで、言葉をいったん切り上げ、樹利亜の肩を掴む。

「樹利亜ちゃん。貴方は、七瀬龍治が好きで結婚したの? あぁ! これだと樹利亜ちゃん。貴方を困らせちゃうね?」

 白川さんが、突然、樹利亜に向かって頭を下げ始めた。

「白川さん!? 顔上げて下さい!?」

 樹利亜は、白川に向かって、止めて下さいと慌てて制止を掛ける。

「樹利亜ちゃん?」

「白川さん。私は、自分の意思で七瀬龍治と結婚したんです」

 白川さん。 貴方からすれば、私は、自分の恋すら叶えれらない臆病者に見えたかも知らない。

「……樹利亜ちゃん? 貴方はそれで幸せなの?」

 白川さんが、樹利亜に、中身が違うが質問を変えて、彼女に問いかける。

 けれど、樹利亜は、そんな白川の想いに反して……

「白川さん。幸せに決まってるじゃあないですか! もう、白川さん? 嫉妬ですか? 止めて下さいよ? 恥ずかしいじゃあないですか?」

 _バン_ 肩を強く叩く音

「樹利亜ちゃん。痛いよ? もう、解ったらもうやめて!」

(白川さん…ありがとうございます)

 樹利亜は、白川に聞こえないように、感謝の言葉を囁く。

「樹利亜ちゃん?」

「あぁ! そうだ! 白川さん。そろそろ、取材させて貰いますよ? 私だって、忙しいですから」

「樹利亜ちゃん! ちょっと待て!」

「待ちません!」

 樹利亜は、白川に向かって、待ったなしに強引にマイクを押し付ける。

(白川さん……そして、灯さん。本当にありがとうございます。でも、これは、私個人の問題だから)

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