108本の赤い薔薇

第21話

『いらっしゃいませ!』

 堂城君との再会から1か月後。

 樹利亜は、何故か以前アルバイトをしていた「フラワーショップ:ホワイト」で店員として花を売っている。

 ☆

『樹利亜さん?』

 勤務を終え、職場である「菜々」を出ると一人の女性が自分に声を掛けてきた。

『えっと…どこかでお会いした事ありましたっけ?』

 樹利亜は、自分に声を掛けてきた茶髪の髪の長い女性に見覚えがなかったので傾げる。

『樋宮灯です。フラワーショップホワイトで一緒にバイトしていた』

 樹利亜の前で、いきなり自分の後ろ髪を前になびかせる。

『灯さん? 本当に?』

※樋宮灯。大学時代のバイト先で出会った同い年で一番仲がよかったバイト仲間。

『はい』

『灯さん! 久しぶり! 元気だった?』

 樹利亜は、灯に抱きついた。そして…

『私ならいつも元気だよ? 樹利亜さんも元気そうで。それに会わない内に益々綺麗になったんじゃない? 好きな人でもできた?』

 抱きついてきた樹利亜を無理やり引き離すと、顔をニヤニヤさせながら樹利亜の顔を覗き込む。

『灯さん! 急に何を言い出すんですか! そんな訳ないでしょ?』

『…』

 樹利亜の即行の否定に、灯はどういう訳が言葉を失ってしまった。

 だけどすぐさま、何かを思い出したか口を開いた。

『…樹利亜さん。私、今度結婚するんです。鳴海坂昴君と』

『本当に?』

『…うん。この間、昴君から結婚して下さいって』

 嬉し恥ずかしそう左手の薬指に光り輝く、昴から貰ったのであろう真ん中に小さな赤いダイヤ埋め込まれた銀色の婚約指輪を樹利亜に見せる。

『おぉおぉ! おめでとう!』

『ありがとう。それでねぇ? 樹利亜さんにも私達の結婚式に参加して欲しいの?』

 きっと彼女は、自分をどんな方法を使ってでも誘うつもりだったのだろう? その証拠に、灯が差し出してきた招待状には、あいつと結婚して名前が変わっているのに、旧姓の南浜樹利亜様と書かれていた。

 きっと、彼女は、私が堂城君とじゃなくてあいつと結婚した事を知らない。だから…私はいけない。行ってはいけない。

『ありがとう。でも、ごめん』

 樹利亜は、灯が差し出してきた招待状を受け取られず、そのまま灯の横を通り抜け彼女とは反対方向に駆け出した。

『樹利亜さん!』

 駆け出した樹利亜を引き留めようと、灯は大きな声で名前を叫んだ。

 だが、その声は、突然吹いた風によってかき消された。

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