第17話

『…やっぱり一目惚れだったんですか? 堂城誠也さんに?』

『えっ!』

 堂城誠也の事を訊かれて、樹利亜は手に持った追加したばっかりのコップをテーブルに落としそうになった。

『樹利亜さん!? 大丈夫ですか?』

 渚が、落ちる寸前でコップを受け止めてくれた。

『ありがとう』

 樹利亜に、コップを渡すと渚は再度尋ねる。

『樹利亜さんは、いまでも好きなんですか? 堂城さんのこと?』

『ゴホゴホ。渚君! 変な事言わないだよ?』

 ゴホゴホと咳が出る。そんな樹利亜の背中を渚が優しくさする。

『えっ? 樹利亜さんは、彼に会いたいんですよね?』

 渚は、樹利亜から渡された柿谷霧矢からの手紙を、彼女の前に差し出す。

『…はい』

『樹利亜さん。貴方にこの手紙を送った柿谷霧矢は、僕の直属の上司です』 

 半分本当で半分嘘の話を樹利亜に振る。

 けれど、樹利亜を信じさせるのにはそれだけでよかった。

 だってその証拠に…

『渚君!? 堂城君は、いまどこに居るんですか? 教えて下さい!』

 渚は、いま、樹利亜によって押し倒されている。

『…樹利亜さん! 僕は、また襲われているんでしょうか? それとも、このままキスでもした方がいいですか? 僕は、別に構いませんけど…』

 冗談っ気に、樹利亜の唇を指でなぞる。

『!? ごめんなさい』

『あぁはは。冗談ですよ? でも、そろそろお開きにしましょうか?』

『えっ! まだ、何もきいてないです』

 起き上がって、飲み残しのビールを手に取りながら、渚に迫る。

 そんな樹利亜に、渚は、自分のスマホを差し出す。

『樹利亜さん! アドレス交換しませんか?』

『アドレスですか!』

 突然の提案に驚く。

 だって、彼とは、今日初めて会ったばっかり。

 それに、自分のアドレス帳には家族と会社以外、個人的に登録している異性は、堂城君しかいない。

 6年経っているからもしかしたら、変わってるかもしれないけど、消さずに残してある。

『…駄目でしょうか?』

 涙目で、捨てられて子犬みたいね目で、樹利亜の顔を見つめる。

『いいですよ?』

 堂城君と会えるなら、私は、どんな手でも使ってやる。

『ありがとうございます』

★★

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