第18話

「えっ! 堂城君。あの雫丘出版の副編集長なのすごい!」

 堂城君は、出会った頃から、本の虫で、いつも何かしらの本を読んでいた。

「すごくないよ? 副編集長って言っても形だけだし」

「えっ! それでもすごいよ? 私なんか、男だらけの出版社だよ? 名前は、女の子ぽいのに…」

 樹利亜が、働く大手出版社「菜々(なな)」は、名前こそ女の子みたいなのに、働いている女性は、会社全体で50人にも満たない。

 それぐらいこの会社には、女性が少ない。

 だから、樹利亜には同期に女性が一人も居ない。

 それでも、樹利亜は、グルメと花を扱う編集部で編集者として毎日駆けずり回っている。

 樹利亜たちが発行している毎日の食卓に可愛いをコンセプトにし「sweet table」

 この雑誌は、毎日の美味しい食卓に、季節の花を飾ろうをコンセプトにした、グルメとお花を同時に紹介するグルメ雑誌であると同時に、園芸雑誌でもある。

「えっ! 樹利亜も…」

 堂城は、そこで言葉を区切る。

「堂城君。私に気なんて使わなくていいよ?」

「…ごめん」

 堂城君が気にしているのは、きっと私が、彼に話した夢の話。

 私は、デザイナーになりたかった。

 でもその夢は、七瀬龍治に無理やり妻にされたせいで、夢ごと奪われた。

 だからこそ、堂城と同じ出版の道に進む事にした。

 彼ともう一度再会する為に。

「謝らないで! 堂城君!? 私は、貴方にもう一度会いたくて、貴方と同じ道を選んだの!」

 樹利亜は、唇が触れる寸前の距離まで顔を近づけた。

「…」

 堂城は、そのまま樹利亜を自分の腕の中に抱きしめ、彼女の額にキスを落とす。

『ありがとう。俺に、会いにきてくれて』

「…ありがとう。私に、もう一度会ってくれて」

 堂城の小さな独り言に、腕の中の樹利亜が小さな声で返事を返す。

★★

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