第74話

12月25日、20時 カフェ喫茶rose ホール

 ※カフェの営業は、一時間前に終了している。だから、今からは時間外営業。それも、ある一人のお客さんの為の。

_チリン_

「いらっしゃいませ!」

「瀬野明希様ですね?」

 店から、水色の制服を着た一人の男性が瀬野の前に姿を現し、頭を下げる。

「こここんばんは。あの?」

 カフェ喫茶roseに、スーツを着た一人男性が入ってきた。

「瀬野様、本日は、カフェ喫茶roseにお越し頂きありがとうございます」

「あぁぁぁあの」

 その光景は、瀬野は再び困惑する。

 そんな瀬野に、ホールスタッフの男性、浅井藍里は、

「瀬野様。わたくし、本日、瀬野様を担当させていただくホールスタッフの浅井藍里と言います」 

「……浅井さん?」

「はい! あぁでも、瀬野様の方が年上のなので、瀬野様の呼びやすい呼びかけで読んで頂いて構いません。では、行きましょうか?」

「……久しぶり」

 7年ぶりに再会した來未は、7年前と全く変わって……いやぁ、綺麗になっていた。

 明希は、折角会えた來未に、なにを言えばいいのか、解らなくて、久しぶり以外、何も言えなくなってしまった。

「そんな所に突っ立ってないで早く座ったら?」

 立ったまま中々、座ろうとしない明希に、先にテーブルに座っていた來未が立ち上がり、声を掛ける。

 今日の來未は、店の制服ではなく、サンタの恰好をしている。

※來未は、兼城が迎えに来たあと「rose」 に復職……いやぁ? そもそも、來未が送信した退職願いは受理されていなかった。  

「……そうだね」

 來未の言葉に、明希は、彼女は反対の席に腰掛ける。

 そして、改めて來未の方を見め直して……

「來未、久しぶり。そして、ごめん」

 と過去のことと、今までのことを合わせて謝罪する。

「……明希君。私ねぇ? いま、兼城君と結婚を前提に交際してるの?」

 自分に向かって謝罪をしてきた明希に、來未は、兼城と交際している事を告白する。

「!」

 その告白に、明希は、驚き顔を上げ、そのまま來未の顔を見る。

 冗談じゃあなくて本当なのか? と確かめる様に、來未の顔をじっと見つめる明希。

 そんな明希に、來未は小さく頷く。

「……そっか?」

 明希は、小さな声で呟くと、続けざまに……

「じゃあ、告白は薪(あいつ)から」

「……うん。でも、私ねぇ? つい2週間前まで、1歳年上の弁護士の男性と結婚を前提に同棲してたの」

「えっ?」

 來未からの予想もしなかった告白に明希は、言葉を失う。

 しかし、すぐさま……

「ちょっとまっていま、兼城に告白して、交際してるって……」

 一体なにがどうなってるのか明希は、解らずパニック。

「……明希君。明希君は、いまでも、まだわたしのこと? 好き?」

 いきなり顔をギリギリまで詰めてきた來未。

「くくくくく來未!」

 ギリギリの距離まで近づいてきた來未に、明希はドキドキが止まらない。

 手を伸ばせば、唇をあともう少し近づければ、來未にキスができる。

 でも、それをいましてしまう訳にはいけない。

「……7年前のあの日、明希君が私の前から何も言わずに消えて、3年間も音沙汰なしで、わたし、明希君に捨てられたんだと思った」

「そんな訳ない! 俺が來未! お前を捨てるわけがない!」

 來未の言葉に、明希は彼女の両肩を掴んだ。

「知ってる! 明希君がそんな人間じゃあないっこと。でも、あの時の私は、そんな風に思う事ができなかった。だから、明希君、貴方よりも、ずっと傍にいてるくれる彼の方を選んだ! でも3年後、その彼から、突然来月、結婚するって言われたの。そして同時にお前とはただの遊びだとも言われたの。まぁ? あとからそれは、その場限りの冗談だったと彼が泣きながら私に言ってきたけど。私は彼、どころか誰のことを信じられなくなったの! だけど、兼城君だけは違った。そんな、殴るまではいかなかったけど、怒ったの。ふざけるなって」

「……あいつらしいなぁ?」

「本当、兼城君には敵わないよ? 他の皆が、私は悪くないと言ってくれるのか、独りだけふざけるなって私に言ってきたんだから。けど、あの時の私は、その言葉が嬉しかった」

 自分ではない愛しい人を想ってほほ笑む元カノ、七橋來未の姿に、瀬野明希は……

「よかったなぁ? 今度こそいい人に出会って」

「……明希君?」

「俺は、結局、お前のことを幸せに幸せにすることができなかった。けど、薪なら、お前のことを幸せにしてくれるよ。それに、もしアイツお前のことを泣かせるようなことがあったら、俺がアイツのことを泣かせるから」

「……ありがとう。けど、大丈夫。私は、兼城君のことが大好きだから」

 そう……私はもう大丈夫。

 月夜に照らされたクリスマスツリーのように、私の心は、光り輝ている。

 そう、私もう、独りじゃあない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

3度目の正直婚。 なつかわ @na_tu_ka_wa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ