第73話

「……んんんんん」

 來未は、ゆっくり目を開ける。

 そして、目の光景に驚く。

「なんで?」

 そこに広がっていたのは、自分を護るように倒れる兼城薪の姿だった。

 それよりも、なんで兼城君がここに?

 私は……いま、ここで死のうとしたんだよ!

 それなのに……

「……んんん」

 気を失っていた兼城が目を覚ます。

「兼城君! あぁごめん」

 來未は、急いで兼城の上から退く。

「よかった。七橋に怪我がなくて」

 來未のその声にゆっくり兼城が起き上がる。

 しかし、來未を庇った時にどこかをうったのか、兼城の顔が一瞬曇る。

「兼城君!」

 その様子に、來未は堪らず彼の名前を叫ぶ。

「あぁ! 大丈夫! 大丈夫! それより! よかった七橋が無事で」

 自分のことより來未のことを心配する兼城。

 そんな兼城に、來未は堪らず。 

「なんで? なんで? 兼城君がここにいるの?」

 そもそもなんで華水にいるはずの兼城君がここにいるの?

「そんなの決まってるだろ! 七橋! お前を迎えにきたんだよ!」 

「はぁ? なんで? 兼城君が、わたしのことを迎えにくるの? 恋人? ましてや彼氏でもないないのに」

 そう、私と兼城君は、ただの友達。

 それも、元は、自分の元々彼氏だった瀬野明希の紹介で知り合いになっただけの関係(まぁ? のちにバイト先も紹介して貰ってけど)で、友人はあるけど、恋人ではない。

 それなのに……どうして、ここまでしてくれるの!

 それ以上に、私、今、死ぬ気だったのよ!

 來未は、兼城に向かって思いの丈を口にする。

「そんなお前が大事だからに決まってるだろ! 七橋! お前はお前が好きだ!」

 兼城は、そう告げると、泣いている七橋を抱きしめた。

「……ごめんなさい。貴方とは付き合えない」

 來未は、兼城にそう告げると強引に彼から離れようとする。

 これ以上兼城君。貴方に甘える訳にはいかないの!

 しかし、兼城がそれを阻止する。

 それでも、來未は、兼城から逃げようと両腕を掴み、

「離して! 私は、みんなの前から居なく……!」

 兼城が、突然、自分の唇を重ねてきた。

「七橋。だったら、俺も犯罪者になっても構わない」

「えっ!」

 兼城の突然の発言に、思わず掴んでいた手を離してしまう。

「七橋! 俺は、お前が好きだ。だから、七橋、お前も俺と生きて欲しい」

 その真剣な眼差しに、來未は、「はい」と返事を返してしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る