第69話
「……店長、いやぁ? 樹さんは本当はなにを知っているですか?」
栞もホールから出て行き、店長と二人っきりになった兼城は、覚悟をもって樹に尋ねた。
「なんのはなしだ!」
解っているくせに、あえて話を誤魔化す。
「七橋のことですよ? あいつが理由もなくroseを突然辞めたりなんかしませんよねぇ? それに明日はroseのクリスマスイベント初日です。そんな大事な時期に、よほどの理由がない限りそんな勝手を店長、あなたが許すわけがない」
そう、ここにいるroseの店長である、樹怜は、仕事に関してとっても厳しく、無断欠勤及び遅刻なんてしようものなら、店長からの鬼のような鬼電が1分おきに相手が出るまで携帯にずっと掛かってくる。
そして、それは仕事中でも発揮され、ちょっとでも仕事でミスをしようものなら、客商売の為、その場で怒ることは絶対しないが、仕事が終わったあとに鬼の説教が待っている。
七橋は、一昨日確かに婚約者だった古橋総一郎に、まるでゴミのように捨てられた。
けど、俺達にその話をしてくれた七橋は、話した直後は凄く落ち込んでいたが、仕事中及びが仕事が終わったあとは、いつも通りに戻っていた。
だから、当時その場にいてその話を訊いた俺、神林、藤井(如月は買い出しで席を話していた)は、もう大丈夫だと思いその日は別れた。
それなのに……あいつは……
俺……いやぁ俺達の前から姿を消してしまった。
「……なんだそこまでバレてたのか? お前って相変わらず面白くないよなぁ? まぁ? そこが兼城、お前らしいけど」
いきなりため息をついたかと思えば、すぐさま兼城の顔を見ながら笑い始めた。
そして、最終的には何故か店長から両肩を掴まれてしまった。
「だから兼城! 行け!」
「行くってどこにですか? 店長! 解るように説明して下さい!」
話が全く見えてこない。
兼城は、店長にちゃんと解るように説明して下さいと訴えた。
すると、右頬を思いっきり叩かれた。
_パン_ 頬を殴る音
「……店長?」
突然の出来事に自分の頬を押さえる兼城。
兼城には、何故自分がこんな目に遭うのか理由が解らない。
しかし……
「兼城君に今までありがとう。そしてごめんなさいって私の代わりに伝えて貰えませんか? わたしには、もうそれすらを言う権利がないのは解っています。でも、この言葉だけはどうしても彼に伝えたいんです」
「……これって」
叩かれて赤く腫れだして、右頬を押さえながら確認するかのように樹の顔を見る。
そんな兼城からの視線に……樹の唇が緩む。
「……バカのお前でも流石にこれには気づくか? 兼城は、いつから七橋のこと好きなのか?」
「……」
なんで急にそんな話になるんですか!
「ほらほら! 黙ってたらなにも解んないだろう?」
「……」
グイグイ迫ってくる樹に、戸惑いが隠しきれない兼城。
しかし、樹はそんなことお構いなしに……
「早くしゃべった方がお前の為だよ! なぁなぁ? 本当はどうなんだ! 兼城?」
「……」
店長、急にいったいどうしたんですか!
七橋が俺のこと最後に気に掛けてくれたかって、俺が七橋のこと好きになれる訳ないでしょ?
あいつには……瀬野明希がいるんですよ!
そう……だから今更自分が七橋とつき合うなんて天地がひっくり返ってもあり得ない。
例え……七橋が自分のことを好きだと言ってくれても……
(俺は、明希を置いて、自分だけ幸せになれない)
「バカじゃあねぇの!」
「!」
樹のため息と今まで訊いたことのない口調に兼城は思わず樹の顔を見る。
「好きなら好きってはっきり言えよ! お前といい七橋といい。他人に遠慮ばっかりしやがって。お前らに振り回される周りの身にもなれって言うだよ!」
自分の髪の毛を右手でクシャクシャとかきむしる。
そして、兼城に向かって
「兼城薪! いますぐ! 七橋來未を連れ戻してこい! これは、店長からの命令です! 返事は?」
「あぁぁはい!」
「声が小さい!」
「あぁはい!」
「解ったらさぁさっといけ!」
そして、そのまま用意しておいた(合鍵を代わりに出しておいた)の彼の荷物ごと兼城を店の外に放り出した。
(……兼城! 七橋のこと任せたぞ! あいつには、お前が必要なんだよ! 他の誰でもない! 兼城薪。お前が……いまのあいつには必要なんだ)
☆
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます