失恋と決意

第66話

12月12日 午後19時。

「栞ちゃん! 今日も、ご飯美味しかったよ! とくにふわふわ卵のオムライス」

「ありがとうございます。けど、須賀谷さん! 毎日のようにきていただけるのは店としてはありがたいですけど、奥様と娘さんには怒られませんか?」

 常連客である須賀谷颯さんは、食品会社の工場に勤めるサラリーマンで、毎日のようにroseに夕飯を食べにくる。

 しかし、彼には一緒に暮らしている奥さんと中学3年になる娘さんが一人いる。

 なので……余計なお世話なのは百の承知なのだか彼で、ここに夕飯を食べに来るたびいつも心配で堪らない。

「あぁそれなら平気平気。なんあなら、自分に外食を勧めたのは、妻の方なんだよ」

「……えっ?」

 須賀谷からのまさかの発言に驚く。

 奥さんとが菅谷さんに外食を勧めた? どういうこと?

「あぁごめんごめん! 僕の言葉が足りなかったね? 栞ちゃん! あそこの建物なにか解る?」

「あそこですか? えっと……!」

 須賀谷の指差す場所にあったのは学習塾(道路を挟んで反対側)

 もしかして、須賀谷さんが毎日のように、roseに夕飯を食べに来ていたのって、娘さんの為?

 恐る恐る須賀谷の顔を見ると、彼の顔が少しばかり真っ赤に染まっていた。

「……娘には言わないでくれよ! 父親が心配して、毎日のように娘の様子を道路の反対側からずっと見つめている気持ち悪いだろう!」

 恥ずかしそうに自分の顔も両手で隠す。

「ふふふ」

「……栞ちゃん?」

 突然、笑い出した栞に、須賀谷は、手をゆっくり離す。

「あぁごめんなさい。でも、須賀谷さん。全然気持ち悪くなんかありませんよ。わたし、とくに反抗期がすごかったんで、中学生の時なんて父親と喧嘩ばっかりしてましたよ! だから、羨ましいです! 自分の父親にそこまでそこまでして貰えるなんて!」

 わたしの父親は、私が20歳の時に胃がんで亡くなった。

 わたしの両親は幼馴染で結婚し、わたしを30歳の時に産んだ。

 私が二十歳の誕生日を迎えた年に、父親に胃がんが見つかった。

 見つかった時にはもう末期の状況で、手術ができない状態だった。

 そして、私の晴れの舞台に見届ける前になくなってしまった。

 だから、須賀谷さんと娘さんの関係が羨ましい。

 自分はもう……それすらできないから。

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