第65話

「はいもしもし……えっ? 玉木編集長! おぉぉお疲れ様です!」

「お疲れ! 悪いな! こんな朝早くに」

 突然の玉木編集長からの電話になこは驚く。

 幸せなねこでは、社員全員連絡先を交換している。

 でも、それはあくまで所属している班の中での連絡であって、編集長の連絡先は知らない。

 なので、なんで玉木が自分の番号を知っているのか解らない。

 けど、今はそんなのは問題ではない。

 編集長から直に電話なのだ。

 失礼があってはいけない。

「いやぁ! 大丈夫です!」

 全然大丈夫ではない。

 むしろ、問題あり過ぎだ。

「そっか、ならよかった。西野」

 なこの大丈夫発言に、電話越しの玉木はよかったと返事を返す。

「はい!」

「少し落ち着け!」

 なこの余りにも大きな声に、玉木も堪らず落ち着けと声を掛ける。

「……すみません。それで、玉木編集長、わたしに何のご用件でしょうか?」

「あぁ! 舞子班長にもう連絡してあるから、今日一日私の仕事を手伝って欲しい?」

「はぁ?」

 突然のことになこは相手が編集長だということを忘れて「はぁ!」と叫んでしまった。 

「あぁぁ玉木編集長! いまのは決して、編集長のことを馬鹿にしたわけではありません! それより、自分はまだまだ下っ端の下っ端です。なので、編集長のサポートなんでできません!」

 なこは、無礼を謝り、自分ではサポートは無理だとはっきり伝えた。

 しかし、玉木はそんな、なこの言葉を……

「西野! 俺は、君の努力を知ってるし、なんなら日々勉強している事も知ってる。西野! 俺は、君だからこそサポートを頼みたい。他の誰でもないきみに」

 玉木からの予想外の言葉になこは言葉を失う。

 そして、同時に玉木がこんなにも自分の事を見ていたことに驚く。

「けど、西野、きみがいやなら他の……」

「玉木編集長。私やります。今日一日、編集長のサポートやらせて頂きます」

 薪君。私、貴方の事を忘れることはできないよ!

 けど……私にもいるかもしれない。

 私のことも見てくる大切な人が。

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